ちょっと前に、ディズニーランドでふわふわ風船の販売をやめた。というのがニュースになりました。理由は原料のヘリウム(He)が入荷しなくなったためです。ヘリウムは、話題の「レアアース」でも「レアメタル」でもなく、宇宙では水素に次いで2番目に多い物質です。なのに、なーんで、そんなことになったのか。ちょっと調べてみました。

ヘリウムは、非常に軽い物質です。空気をつくる窒素、酸素、アルゴンなどよりずっと軽く、風船にヘリウムをつめると、ふわふわと浮かびます。遊園地とかイベントのおみやげなんかでおなじみですよねー。で、こどもにもたせると、離してしまい、大泣きというのも、これまたお約束です。

地球ではなく宇宙で見つかったヘリウム

ヘリウムは、意外なことに、地球より先に、太陽で発見されました。1868年といいますから、日本では明治元年です。

そのころ、光をプリズムなどで虹色にわけると、特定の色のごくごく一部が抜けるということが知られていました。それは、特定の色の光を吸収する気体があるためです。たとえば、オレンジ色が抜けるのはナトリウムがあるため。ピンク色が抜けるのは水素があるためです。あ、理系のみなさんには、原子による吸収スペクトルといえばおしまいですね。まあ、ちょっと忘れている方もいると思って、まわりくどくお話しいたしました。はい、ご容赦。

さて、ヘリウムを発見したのは、太陽の光を虹色にわけて調べた2人、フランスのジャンセンとイギリスのロッキャーです。それぞれ未知の黄色が抜ける場所を発見、これが地球上では起こらないことから、太陽にだけある物質のせいと考えられるようになりました。そこで、ギリシャ語で太陽を示す「ヘリオス」からヘリウムという名前になったのです。

でも、まあ、かんちがいというか、気が付かないことはいくらでもあるわけ、その後、20世紀になると、ヘリウムは地球上にもあることがわかったんですね。ただ、ヘリウムは非常に軽いので空気中からはドンドン宇宙へとぬけちゃいます。つまり、その辺にはほとんどなく、地中に閉じ込められた天然ガスに混ざっているのが発見されたのです。

その後、ヘリウムは天然ガスから大量にとれるようになり、気球用など軍事物資からおもちゃの風船にも使われるようになり、最近では、超低温になる物質として、半導体製造や医療用機器の冷却材として使われたり、安定な物質として測定器に使われたり、かなり活躍するようになっています。いまや、なくてはならない物質なんですねー。

天然ガスから採れてもシェールガスからは採れないヘリウム

ところが、このヘリウムが枯渇しつつあるのです。まず、中国などの新興国でもどんどん使われるようになったこと。また、天然ガスは、新しいガス田も発見されているのですが、話題の「シェールガス田」からはヘリウムはとれないのですね。ということで枯渇まで後25年とかいわれています。また、ヘリウムはほとんどアメリカが独占している物質で、コントロールが厳しくなったということもあるようです。

その影響が表れているのは、遊園地の風船だけじゃありません。日本最大の科学館で、年間100万人以上が訪れる名古屋市科学館(ギネスブックにある世界最大のプラネタリウムでも有名)は、宇宙放射線を観察するスパークチェンバーの運用を休止するという発表をしました

いずれも、軍事や産業用途を優先しているためで、ヘリウムを遊びや教育につかうなんてまかりならんという感じになっているためです。

このままでは、ふわふわ風船は絶滅か? というと、さすがにこうなると、いままでヘリウムを生産していなかった天然ガス田から、ヘリウムをとろうという話になってきています。カタールやロシアなどが生産を開始しており、とりあえず息はつけそうな雰囲気だそうです。

未来は太陽や月からヘリウムを採取する時代に?

でも、遠い将来はどうするのでしょうか? そんなときは、ヘリウムの原点にもどることになるかもしれません。つまり太陽です。なにしろ地球の100万倍もの体積がある太陽の2割はヘリウムでできています。もちろん、太陽から直接ヘリウムを採取することはできません。表面温度が6000度の太陽には、接近もできませんよね。接近するほうがガスになってしまいます。

でも、太陽はヘリウムを「太陽風」という形で吹き出してくれていて、それが地球にも届いているのです(LASCO2とLASCO3が、太陽風がよくわかる写真)。太陽風には5%のヘリウムが含まれています。これが46億年前に誕生した月の岩石につきささり、月の表面には大量のヘリウムがあることがわかっているのです。

ふわふわ風船で遊ぶのに、月からヘリウムを採取するとなると非常に大事ですが、いまでも、アメリカから輸入しているのですから、将来はひょっとするとひょっとするかもしれませんねー。

ところで、このおはなし、タイトル通りHe~になったでしょうか?

なお、光っているものの前にヘリウムガスがあると、光のうち黄色が抜けるといいましたが、ヘリウムガスに電気などでエネルギーをあげると、その黄色で発光します。これを利用してカラフルな色の装飾をつかったものが、ネオンサインで、その名の通り、赤く光るネオンガスや、青く光るアルゴンガスなどが使われています。そのほかの色は、光があたると特定の色で光る蛍光剤がつかわれているそうですよ。ヘリウムは色が淡いのでつかわれていません。

ちなみに、ヘリウムのガスは、非常に小さな粒でできています。そのため、風船のゴム膜をどんどん通過して、風船がすぐにしぼんでしまうのです。そこで、ヘリウム風船を長持ちさせたい場合は、適当な樹脂材を風船の内側にまんべんなくぬると有効で、専用の製品(ウルトラハイフロート)も売られていますが、木工用ボンドやヘアスプレーでも代用できるようです。そんなレポートがありました

元素周期表(出典:Wikipedia)

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。