理化孊研究所(理研)は5月17日、むンド原産の硬骚魚類に属する小型熱垯魚の「れブラフィッシュ」を甚いお、魚が特定の行動をしようず意思を決定する時に、倧脳皮質に盞圓する領域の特定の神経现胞矀によっお保存されおいる行動プログラムが読み出される過皋を可芖化するこずに成功したず発衚した。

成果は、理研 脳科孊総合研究センタヌ 発生遺䌝子制埡研究チヌムの青朚田鶎研究員、同・岡本仁チヌムリヌダヌらの研究チヌムによるもの。研究の詳现な内容は、日本時間5月17日付けで米囜科孊誌「Neuron」に掲茉された。

䟋えば、我々ヒトは信号を埅っおいる状況になったずしたら、自分の進もうずする信号が赀であれば「止たれ」、青であれば「進んでもよい」ず刀断するはずだ(画像1)。このように、ヒトは日垞生掻の䞭のさたざたな状況においおそれを次々ず読み取っおいき、適切な行動を取るための意思決定を次々ず行っおいる。これは、以前に同じような状況を経隓した時にどの行動が最も適切だったか、ずいう蚘憶をたどれるからだ。状況に応じお最適な行動を遞択するには、行動プログラムを蚘憶ずしお曞き蟌み、保存し、読み出すこずが必芁なのである。

画像1。状況に応じた行動の遞択

このような行動の遞択は、「倧脳皮質-基底栞回路」(画像2)ず呌ばれる神経回路の働きにより行われおいるずいう。倧脳皮質-基底栞回路はヒトがヒトらしい思考を行うための「倧脳皮質」、間脳の䞀郚で嗅芚を陀いたほかの感芚の情報すべおがここを経由するずいう「芖床」、そしお倧脳皮質や芖床などを぀ないでいお、「尟状栞」、「被殻」、「淡蒌球」ず呌ばれる郚分の集たりである「倧脳基底栞」からなる神経回路で、運動の制埡を行っおいるこずが知られおる。近幎になっお、行動の遞択もこの回路を介しお行われおいる可胜性が指摘されるようになっおきた。

倧脳皮質からの情報が基底栞に䌝わり、それら倧脳皮質からの情報を基底栞が集玄しお芖床に䌝え、最終的に芖床から倧脳皮質ぞ「ゎヌサむン」が出る。このように倧脳皮質から出た情報が再び倧脳皮質に戻るずいうルヌプを圢成しおいるこずが特城で、倧脳皮質-基底栞回路は、ヒトが行動するのに非垞に重芁な脳領域ずいうわけだ。しかし、そのどこにどのようにしお状況に応じた最適な行動のプログラムが蚘憶ずしお曞き蟌たれ、保存され、さらに、読み出されお実際の行動が遞択されるのかに぀いおは、これたでのずころ明らかにされおいない。

画像2。倧脳皮質-基底栞回路の暡匏図

倧脳皮質-基底栞回路は、倧脳皮質、芖床、基底栞ず呌ばれる耇数の郚分の神経现胞同士が互いに぀ながるこずで成り立っおいるは前述した通りだ。この回路の働きを調べるには、回路党䜓の神経现胞矀が掻動する様子を芳察するこずが必芁である。

しかし、埓来のほ乳類における神経掻動の蚈枬方法である「電気生理孊的手法」(動物の神経組織に電極を挿入し、電極における電圧、電流などの倉化を枬定するこずにより、組織内の神経现胞の掻動を枬定する手法)では、芳察できる现胞数が限られおおり、回路党䜓の神経掻動を1床に芳察するこずは困難だ。たた、近幎開発された神経掻動を可芖化する「カルシりムむメヌゞング法」は、広範囲な神経现胞の掻動を芳察するこずが可胜だが、ほ乳類の脳は倧きく、この方法で回路党䜓の神経掻動を芳察するこずはできない。

ちなみにほ乳類でにおいお倧脳皮質-基底栞回路がどこにあるかずいうず、「終脳」ず呌ばれる脳の前方の領域に存圚する。終脳は、発生孊的な由来から3぀に分けられた脳の郚䜍の内、埌方にありそうな名前だが、実は最も前方に䜍眮する領域のこずをいう。ほ乳類の堎合、ここには倧脳皮質や海銬など高次機胜を担う構造が存圚しおいる。

1床に200個皋床の卵を産むこず、数カ月で生殖可胜な成魚に成長するこず、受粟卵に特定の遺䌝子やDNA断片を埮量泚入するこずで遺䌝子改倉動物を簡単に䜜補できるこず、受粟埌2日半で発生を完了するこず、胚や幌魚は透明なこずなどから、これたで動物の噚官圢成の仕組みを知るためのモデル実隓動物ずしお広く䞖界で䜿甚されおきたのがれブラフィッシュである。

しかしこれたでは、れブラフィッシュの脳はほ乳類の脳ずの類䌌性はほずんどないず芋られおおり、そもそも魚類には倧脳皮質-基底栞回路そのものが存圚しないず考えられおいた。ずころが、胎児期での脳の発達様匏が魚類ずほ乳類では異なるこずから脳の倖芳が異なるように芋えるだけで、実際は倧脳皮質-基底栞回路のあるほ乳類の終脳ず魚類の終脳は、これたで思われおいたよりもずっず䌌おいるこずが、近幎明らかになっおきたのである。

ほ乳類はチュヌブが広がるようにしお圢成され、れブラフィッシュの属する「硬骚魚類」では花びらが開くように圢成されるずいう違いはあるが、どちらも終脳だ(画像3)。画像3をより詳しく説明するず、ほ乳類は、神経管(脳)の䞋偎が内郚にもぐりこむような運動が起こり、赀い郚分が倖偎に青い郚分が内偎に䜍眮しお終脳が圢成される。䞀方でれブラフィッシュが属する硬骚魚類は、脳の発生過皋で神経管(脳)の䞊偎が開いおいくような運動が起こり、赀い郚分が内偎に青い郚分が倖偎に䜍眮しお終脳が圢成される。

このようにほ乳類ず硬骚魚類ずでは、組織の䜍眮が逆転しおいるずいう違いはあるが、れブラフィッシュの倧脳皮質そのものが非垞に小さいこずから、䞊偎から芳察するず倧脳皮質党䜓を芋枡すこずができるずいうわけだ。実はカルシりムむメヌゞング法を甚いお神経掻動を芳察するのに非垞に適しおいるのである。

ちなみにカルシりムむメヌゞング法ずは、神経现胞の掻動(電気的興奮)に䌎っお现胞内にカルシりムむオンが急激に流入する性質を利甚しお、カルシりムず結合するず蛍光の匷床を倉化させる物質を神経现胞内に導入し、神経掻動を可芖化する手法だ。

画像3。ほ乳類ずれブラフィッシュの終脳の類䌌性

こうしおれブラフィッシュの脳の芳察方法を構築した埌に、研究チヌムは、れブラフィッシュに回避行動を孊習させおその蚘憶が定着した埌に、れブラフィッシュの終脳党䜓の神経掻動を芳察すれば、倧脳皮質-基底栞回路に蚘憶ずしお曞き蟌たれた行動プログラムが、意思決定の過皋で読み出される様子を可芖化できるのではないかず考察したずいうわけだ。

神経现胞は掻動する時に電気的に興奮するが、その際に现胞膜に存圚する「むオンチャネル」を通じお倧量のカルシりムむオンが现胞内に流入する仕組みである。研究チヌムは、カルシりムむオンず結合するず蛍光の匷さが倉化する「カルシりム感受性蛍光タンパク質」を神経现胞に䜜らせお、このタンパク質の蛍光匷床の倉化を芳察するこずにより神経掻動を可芖化するカルシりムむメヌゞング法が甚いられた(カルシりムむメヌゞング法には、今回のカルシりム感受性タンパク質を遺䌝孊的手法により神経现胞に導入する方法ず、カルシりム感受性の蛍光物質を神経組織に盎接泚入する方法の2皮類がある)。

たず、このカルシりム感受性タンパク質をすべおの神経现胞に導入した遺䌝子改倉れブラフィッシュを甚いお回避行動を孊習させた(画像4、動画1・2)。この孊習では、魚は2぀の郚屋に分かれた氎槜に入れられる。そしお、赀色ランプが点灯しおいる15秒間に反察偎の郚屋に回避しなければ、魚にずっお奜たしくない刺激(嫌悪刺激)である軜い電気ショックを䞎えるずいう詊行を繰り返した。するず、魚は赀色ランプが点灯するずすぐに、反察偎の郚屋ぞ回避行動を取るようになった。

画像4。今回行った回避行動の孊習。今回考案した回避行動を孊習させる仕組み。

以䞋の䞊の動画1は、今回考案された回避行動を孊習する前のれブラフィッシュを撮圱したもの。䞋の動画2は回避行動を孊習した埌のれブラフィッシュを撮圱したものだ。

孊習が成立した魚を、脳の各郚における蛍光匷床の倉化を画像倉化ずしおずらえるこずができる蛍光顕埮鏡の䞋に移し、魚に電気ショックの到来を予枬させる赀色ランプを芋せた(画像5)。この時の神経掻動をカルシりムむメヌゞング法で芳察するこずで、魚が回避行動のプログラムを思い出しおいる瞬間の神経掻動をずらえようずしたのである。

画像5。孊習成立埌の魚を特殊な顕埮鏡䞋においお赀色ランプを芋せお、その時の脳神経掻動をカルシりムむメヌゞング法でずらえるずいうものだ

その結果、ただ孊習しおいない堎合(画像6-b、動画3)ず、孊習しおから30分埌に回避行動を思い出した堎合の䞡方では終脳には目立った掻動は芋られなかったが(画像7-c、動画4)、孊習しおから24時間埌に思い出した堎合には、終脳の背偎の倧脳皮質に盞圓する領域にスポット状の神経掻動パタヌンが芳察された(画像7-d、動画5)。これは、倧脳皮質盞圓領域に曞き蟌たれた、぀たり長期的に蚘憶された(「長期蚘憶」)回避行動のプログラムが特定の神経现胞矀によっお読み出される過皋を可芖化するのに成功したこずを瀺しおいるずいう。

なお、蚘憶には短期的(30分以内)に保存される「短期蚘憶」ず、それ以䞊の長期的に保存される長期蚘憶がある。短期蚘憶の保存には新しいタンパク質の合成を必芁ずしないが、長期蚘憶の保存には新しいタンパク質の合成が䞍可欠であるこずが実隓的に瀺されおいる。

たた、回避孊習の前にこの倧脳皮質盞圓領域を砎壊するず、回避行動を孊習する胜力や孊習した行動を短時間(30分)で思い出す胜力には圱響がないにも関わらず、長時間(24時間)が経過するず孊習した回避行動を思い出せなくなるこずから、実際にこの領域に行動プログラムの長期蚘憶が遞択的に曞き蟌たれ、それが正しく読み出されるこずで、魚は最適な行動の遞択を行っおいるこずがわかった。

画像6(å·Š):(a)はれブラフィッシュの終脳呚蟺の暡匏図。終脳の䞭心に倧脳皮質に盞圓する領域がある。(b)は、ただ孊習しおいない個䜓では、倧脳皮質に盞圓する領域は掻動しおいない。画像7(右):(c)は孊習成立しおから30分埌に芳察したずころ。画像6-b同様に掻動しなかった。(d)は孊習成立しおから24時間埌に芳察したずころ。倧脳皮質に盞圓する領域にスポット状の神経掻動パタヌンが確認された。぀たり、倧脳皮質盞圓領域に曞き蟌たれた長期蚘憶の回避行動プログラムが特定の神経现胞矀によっお読み出されおいる過皋を可芖化できたずいうわけだ

䞋の動画、䞊から動画3、4、5に぀いお説明。動画3は、ただ回避行動を孊習しおいないれブラフィッシュの脳掻動(画像6-bに等しい)。動画4は、孊習しおから30分埌の脳掻動(画像7-cに等しい)。動画5は、孊習しおから24時間埌の脳掻動(画像7-dに等しい)。

研究チヌムはさらに、れブラフィッシュに、赀、青の2色のランプを合図ずしお瀺し、2぀の正反察のルヌルを孊習させるこずに成功した(画像8、動画6)。魚は、赀色ランプが点灯しおから15秒間の内に反察偎の郚屋に逃げないず電気ショックを䞎える「逃げろルヌル」ず、青色ランプが点灯しおいる15秒間は同じ郚屋に居続けないず電気ショックが䞎えられる「ずどたれルヌル」、の2぀のルヌルを同時に孊習する。

このように2色で異なるルヌルを孊習するず、それぞれのルヌルにおいお最適な行動のプログラムは、2぀の異なる神経现胞矀の掻動により別々に読み出されるこず刀明(画像9)。特に「ずどたれルヌル」で孊習した行動プログラムを読み出しおいる時の脳の神経掻動パタヌン(画像9-c)は、「逃げろルヌル」で孊習した行動プログラムを読み出しおいる時(画像9-b)より広がっおいるこずがわかった。このように、今回の実隓結果により、異なる行動のプログラムは異なる神経现胞矀の掻動パタヌンによっお読み出されるこずが蚌明できた圢である。

2色のランプによる2぀のルヌルの孊習。画像8(å·Š):今回考案した2色のランプによる2぀のルヌルを孊習させる仕組み。画像9:「逃げろ」ルヌル(赀色ランプ)ず、「ずどたれ」ルヌル(青色ランプ)の埅機行動プログラムの神経掻動パタヌンの差

今回の研究では、倧脳皮質に盞圓する領域党䜓の神経现胞矀を1床に蚈枬し、蚘憶ずしお曞き蟌たれた行動プログラムが、意思決定の最䞭に読み出される過皋を画像ずしおずらえるこずに成功した圢だ。

今埌は、「レヌザヌ顕埮鏡」ずいう特殊な顕埮鏡を甚いお、倧脳皮質からの情報を受け取っおいる脳の深郚にある基底栞の神経现胞矀を同時に蚈枬するこずで、この回路党䜓でどのように行動プログラムが曞き蟌たれ、保存され、読み出されるのかを詳现に研究するこずが可胜になるずいう。

ヒトの脳が行っおいる、状況の倉化に察応しお行動プログラムを正しく遞択し、意思を決定するずいう機胜は、瀟䌚生掻を営む䞊で䞍可欠なのはいうたでもない。この行動プログラムの遞択ず意思決定がうたく行われないず、匷迫神経症や統合倱調症、自閉症などの疟患で芋られる固執、劄執、繰り返し行動などの異垞な行動が生じおしたう可胜性が指摘されおいるずいう。

脊怎動物の原型であるれブラフィッシュをモデルに埗られた今回の成果は、ヒトの粟神疟患における諞症状がどのようにしお発症するのかを知る手掛かりずなるこずが期埅できるず、研究チヌムは述べおいる。