産業技術総合研究所(産総研)は5月20日、日清製粉グループ本社、オリエンタル酵母工業との共同研究により、食餌性肥満モデルマウスを用いて、「小麦ポリフェノール」が持つ活動リズム改善効果や、肥満や耐糖能異常の抑制効果を発見したと発表した。

成果は、産総研 バイオメディカル研究部門 生物時計研究グループの大石勝隆研究グループ長らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、5月24~26日に名古屋大学で開催される第67回日本栄養・食糧学会大会で発表される予定だ。

「体内時計」は多くの生物に備わっている、約24時間周期でリズムを刻むシステムだ。摂食行動や、睡眠覚醒、体温、ホルモンの分泌などに見られるさまざまなリズム現象を制御している。近年、この体内時計が社会の24時間化や食生活の乱れの影響を受け、睡眠障害やうつ病などの精神疾患だけでなく、肥満や糖尿病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病も増加させている可能性が指摘されるようになってきた。

特に食の西洋化に伴う摂取カロリーの増加は、直接的に代謝異常を誘発するだけでなく、行動の夜型化を誘発し副次的に代謝異常を悪化させる可能性が指摘されているところだ。しかし、今のところ体内時計の乱れを根本的に治療するための薬剤はなく、食品の機能性を利用した生体リズム改善法の開発が期待されている。

体内時計が何によって影響を受けるかというと、摂食のタイミングや食餌の内容だ。マウスなどのげっ歯類を用いた研究により、高脂肪食の摂取が、活動時間帯の夜型化を誘発することが報告されている。今回は、活動リズムの夜型化や、「耐糖能」異常、肥満などを示す食餌性肥満モデルマウスを用いて、小麦ポリフェノールの機能性についての評価が行われた。なお耐糖能とは、生体が「ブドウ糖(グルコース)」を代謝する能力のことをいう。耐糖能の異常が原因となる代表的な疾患に糖尿病がある。

今回の研究では、マウスを、普通食摂取群、高脂肪高ショ糖食摂取群、小麦ポリフェノール0.4%入り高脂肪高ショ糖食摂取群の3群に分けて10週間にわたる飼育がなされ、活動リズムと体重の測定されて比較が実施された。また、試験終了時に、「糖負荷試験」によって耐糖能を評価すると共に、肝臓の組織を採取して、脂質の蓄積の調査も行われた。

ちなみに小麦ポリフェノールとは、小麦の表皮部分に多く含まれている「アルキルレゾルシノール」という物質のことだ。水に溶けないポリフェノールであり、小麦を丸ごと挽いた全粒粉や「小麦ブラン」(小麦の表皮で、ミネラル・繊維質が多く、小麦に約15%含まれている)に含まれている(画像1)。また糖負荷試験とは、耐糖能異常を調べる目的で行われる試験のことだ。空腹の状態で、一定量のグルコースを投与し、血糖値の時間変化を測定するという内容である。

画像1。小麦の構造(日清製粉グループのホームページより抜粋)

夜行性であるマウスは、通常暗期の前半に活動量がピークとなるが、高脂肪高ショ糖食を摂取したマウスでは、10週後には活動量のピークが暗期の後半にずれこみ、活動リズムの夜型化が観察された(画像2)。一方、高脂肪高ショ糖食と共に小麦ポリフェノールを摂取したマウスでは、活動リズムの夜型化が見られず、活動リズムの改善効果があることが判明したのである。

さらに小麦ポリフェノールを含んだ高脂肪高ショ糖食を摂取したマウスの体重変化は普通食を摂取したマウスとほぼ同様であり、小麦ポリフェノールが高脂肪高ショ糖食摂取による体重の増加を抑制することもわかった(画像3)。

画像2(左)が小麦ポリフェノールによる活動リズム改善効果で、画像3が肥満抑制効果

耐糖能試験によってマウスの糖代謝機能への影響を検証した結果、10週間の高脂肪高ショ糖食摂取による耐糖能の低下が、小麦ポリフェノールの同時摂取により抑制されていることも判明(画像4)。また、肝臓における脂質の蓄積を比較した結果、高脂肪高ショ糖食摂取による脂質の蓄積が、小麦ポリフェノールの同時摂取により抑制されていることもわかったのである(画像5)。

画像4。小麦ポリフェノールによる耐糖能低下の抑制効果

画像5。小麦ポリフェノールによる脂肪肝の抑制効果

今回の研究成果は、小麦の表皮に含まれる小麦ポリフェノールの新たな機能性を示すものだ。今後、産総研、日清製粉グループ本社、オリエンタル酵母工業の3者は、共同研究によって小麦ポリフェノールによる活動リズム改善効果や抗肥満効果の分子メカニズムの解明を目指す予定としている。