岡山大学は5月8日、動植物の健全な成長に必要不可欠な金属である亜鉛を、活発な成長組織や生殖器官へ優先的に輸送するために必要なイネの遺伝子「OsHMA2」の同定に成功したと発表した。

成果は、岡山大 資源植物科学研究所の馬 建鋒(MA Jian Feng)教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、4月10日付けで米国植物科学誌「Plant Physiology」オンライン版に掲載済みだ。

亜鉛は動植物にとって重要な金属だ。多量に接種すれば有毒ではあるが、ヒトにとっても必須ミネラルであり、亜鉛が不足すると味覚障害や成長停止が起きてしまう。ヒトが摂取する亜鉛は作物を介して土から吸収されたものだが、世界的に亜鉛不足の土壌が広く分布し、大きな問題となっている。また亜鉛はサプリメントとして販売されているほどであり、それらの点からも人間にとって重要で、なおかつ不足しがちな金属であることがわかるはずだ。

同様に植物の場合も亜鉛の不足は望ましくない状況であり、成長が止まってしまう事態を招く。特に細胞分裂や細胞伸長が活発な、新しい葉や穂といった組織がより多くの亜鉛を必要とする。いかにして少ない亜鉛を必要な組織(細胞分裂や伸長が活発なところ)に配分するのかは、植物にとって非常に大事なことなのだ。しかし長い間、植物がどのようにして多くの亜鉛をこれらの組織に優先的に届けるのかは、明らかになっていなかった。

そうした中、研究チームはイネの節で発現する遺伝子のOsHMA2が、土壌から吸収された亜鉛を優先的に新しい葉や穂へ分配することに関与しているという仕組みを発見。この遺伝子を破壊すると、新しい葉や穂への亜鉛の分配が滞り、新しい葉の成長停止、コメ収量の低下を引き起こすことがわかったのである。

なお、土壌の亜鉛欠乏は世界的な問題となっており、作物の生育に深刻な影響を与えている。また人間の亜鉛栄養不足は鉄不足に次ぐ問題で、亜鉛を多く含む食品の開発が期待されているところだ。

今回の研究で同定されたOsHMA2を改変すれば、少ない亜鉛をより効率的に伸長組織へ輸送することで、作物の生産性に貢献できる可能性があるという。また穂への優先的な配分を増やせば、植物体内の亜鉛の効率的利用、亜鉛リッチ米(植物)の作出にも繋がると研究チームは述べる。

また、カドミウムはイタイイタイ病を引き起こす有毒な重金属だが、研究チームは今回の研究で、植物が種子に同金属を配分する際にもOsHMA2が関与していることを究明した。OsHMA2の輸送金属選択性を改変すれば、コメへのカドミウムの蓄積を低減できる可能性もあるとしている。