5月6日(現地時間)から8日までの3日間、米ロサンゼルスにあるロサンゼルスカンファレンスセンターでは、アドビシステムズによるユーザカンファレンス「Adobe MAX 2013」が開催されている。従来は開発者を主な対象としたテクニカルカンファレンスとして行われていた同イベントだが、今回からは開発者とデザイナーを広くカバーする"クリエイティブカンファレンス"という位置づけになっており、これまでとはひと味違う姿を見せている。本レポートでは、Adobe MAX 2013の2日目に行われた基調講演の様子をお伝えする。
誰もやったことのないことにチャレンジする
例年であれば、初日、2日目の基調講演ではそれぞれで何らかの新製品や新サービスの発表が行われるのが恒例となっていた。しかしクリエイティブカンファレンスとして生まれ変わった今年は、初日に大きな発表がまとめて行われ、この2日目の基調講演は特に"クリエイティビティ"をテーマにした、これまでのAdobe MAXには無い形式のセッションになった。
ステージにはまずアドビのSenior Vice President兼General ManagerであるDavid Wadhwani氏が登場し、新プロジェクト「Creative Voice」の紹介を行った。これは、クリエイティブ業界に携わる著名人の声を届けることによって、人々のインスピレーションの発生を手助けしようという試み。この基調講演はその第一弾であり、4名のクリエイターが登壇して各人がどのようにクリエイティビティを実現してきたのかを語った。
ひとり目のゲストはグラフィックデザイナーのPaula Scher氏。彼女の経歴は、学校の壁を全く新しい姿に作り替えるプロジェクトからスタートしたそうだ。このときScher氏は、タイポグラフィと色彩を使い、誰も見たことの無い校舎を作り出した。学校の校舎は本来アートとは無縁の場所。そのような場所にアートを持ち込もうと苦心した結果、素晴らしい環境を作り出すことができたという。
Paula Scher氏の最初の仕事。誰も見たことのない学校の校舎を実現 |
ワイヤーイルミネーションを用いてタイポグラフィを実現する試み。このアイデアは却下されたが、「却下されたということは良いアイデアなはず」と解釈しているとのこと |
最初の成功で学校の専門家という評判を得たScher氏は、ニューヨークの公立学校に壁画を描くコンペや、駐車場を斬新な外観に作り替える仕事、ショッピングモールの広告をデザインする仕事などで華々しい活躍を続けている。講演では、壁にぶつかることで新しい方向性を見いだしたという例も紹介された。いずれも他に類を見ない外観を作り上げていることが大きな特徴で、Scher氏によれば、「一番良いのは、他の人がやらないようなことをすることです。これまで誰もやったことのないような"ひどいこと"にチャレンジすることに価値があるのです」とのことだ。
そんなScher氏でも、新しいチャレンジを行う際には、常に「このまま行けるのか」、「この先に何を見つけられるのか」といった自問を繰り返しているという。そのようなときにチャレンジ精神を失わないためには、一緒に常識を打ち破る仲間を作ることが大切だと語った。
制約がクリエイティビティを高める
ふたり目のゲストはマルチメディアアーティストのPhill Hansen氏。アーティストを目指していたが、手が震える障害によってまっすぐな線を引くことができず、一時はその道を諦めかけたという。しかし、手の震えを自分の個性として受け入れ、震えることも計算しながら描くという発想によって創作活動を再開。大きな作品であれば震えの影響が小さいことなども発見したという。
Hansen氏は、制約がクリエイティビティの向上を手助けすると語る。同氏は障害という制約に対して逆転の発想によりクリエイティビティを発揮した。後に自由に創作活動ができる環境を得た際には、何でもできることがかえって同氏をスランプに陥らせる結果になったという。そこで、自ら制約の多い環境に身を置いて作品を作るという方法を始めたとのこと。例えば、自分の体をキャンバスにする、手の甲につけたインクを壁に叩き付けるだけで絵を描くなどといった試みである。
そうした活動の中から、あえて"破壊する"ことで創作を行うプロジェクトを始める。例えばマッチで作品を作って完成後に燃やしてしまう、ロウソクで絵を描いて火を付ける、などといったアプローチだ。破壊を創作に変えるという発想が新しいプロセスを生んだ。最後にHansen氏はクリエイティビティについて次のように語った。
「人生には制約が付きものです。その中で自分の世界を変えていくことが人生です。私は制約を受け入れることで人生の方向を変えることができました。限界こそがクリエイティビティを生み出す良い材料なのかもしれないと考えています」
現在は新しいプロジェクトとして、自身の電話番号を公開してみんなから電話をかけてもらうというプロジェクトに挑戦しているとのこと。実際に基調講演のステージで番号を公開し、聴衆を湧かせた。