富士通研究所は4月3日、2013年の研究開発戦略説明会を開催し、これからの研究開発戦略ならびに2012年度の成果報告を行った。

人間の経済活動の発展とコンピュータの高性能化に伴い、安全や生活、環境、経済状況、公害、人口爆発、食糧問題、エネルギー問題などの課題が複雑に絡みあい、それを解決するためにICTの活用が求められるようになってきている。

富士通研究所 代表取締役社長の富田達夫氏

富士通はビジョン「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティの実現」を掲げており、技術力、品質と信頼、そして環境配慮の3つの基盤として、ICTの活用によるそうした各種の課題の解決を目指した取り組みを進めており、同ビジョンを実際に実現するための製品やサービス、要素技術の開発の一翼を担うのが富士通研究所だ。「富士通のビジョン、富士通の発展を先進テクノロジーで支えるのが我々の役目」と、同社代表取締役社長である富田達夫氏は語る。

そうした役目として、「人が活動する場でのイノベーションを実現」、「ビジネス・社会を情報装備」、「End-to-Endで全体最適化」の3つのアクションとをベースに、人と社会の融合や、ビッグデータの活用などの実現に向けた各種の研究開発が進められている。また富田氏は「こうした3つのアクションを支える共通基盤として"ものづくりシミュレーション"、"ソフトウェアものづくり"、"材料・デバイス・実装"の3つの柱を立てて推進していきたい」としており、HPCの活用によるものづくりの革新、ハードウェアの高機能・高性能化にともなうソフトウェアの多様化、Si半導体ではなしえない将来技術の実現に向けた材料やデバイス技術の開発なども推し進めていくとする。

富士通の掲げるビジョンと、その実現に向けた技術/サービスの方向性

3つのアクションと共通基盤の詳細

同研究所の富士通グループ内での位置付けは、本社やほかのグループ企業から資金援助を受けて研究開発を共同で進めたり、各社のCTOと技術戦略タスクフォースを形成し、将来のビジネスに必要となるであろう技術への取り組み策定などを行うというこれまでと基本的には変わりがない。そのため掲げている戦略的研究開発テーマも従来のとおり、

  1. 事業戦略テーマ
  2. 全社骨太テーマ
  3. シーズ指向テーマ

の3つの区分けであることに変わりはなく、リソースの比率も40%、40%、20%で変更はないが、2013年度はこれまで5つ掲げられていた骨太のテーマを「いくつかが陽の目を見て事業化されたり、これまでシーズ研究として行われていたものが育ってきたものがあることを受けて、4つに集約し、名称も変更した」とする。

変更された新たな骨太領域のテーマは以下の4つ。

  • ユビキタスイノベーション
  • ソーシャルイノベーション
  • ICTイノベーション
  • ものづくり革新

これら4つのテーマから外れたものはシーズ指向テーマとして研究が継続される形となっている。

5つの骨太のテーマだった2012年度から、2013年度は4つの骨太のテーマに集約したが、実際に行う研究の中身の方向性に変更はないという

また、同研究所ならびにグループとの横連携の構築や戦略策定、研究始動のマネジメント強化に向け、R&D戦略本部内に以下の4つの推進室を立ち上げたという。

  • ライフイノベーション研究推進室
  • モビリティ研究推進室
  • ATO(Academic Technology Outlook)推進室
  • オープンイノベーション推進室

それぞれの役割は、ライフイノベーションとモビリティ推進室が、実際に研究を行うのではなく、保有している技術などを活用して研究の推進を図っていくといったもので、ATO推進室が学会などにおける数年先のテクノロジー調査などを進めるもの、そしてイノベーション推進室が、これまでも行ってきていた外部との連携構築に加え、すした取り組みを体系的に1つひとつ有機的に結び付け、研究所全体の活性化をはかるものとなっており、富田氏は、「こうした取り組みの活用で先進テクノロジーによるイノベーションを生み出していく。それが最終的に柔軟ながらも壊れにくい社会を実現するためのICTの活用につながっていくはずで、我々はそうしたことを実現できる立場にいる」とし、ICTの活用による新たな社会の実現に意欲を示した。

4つの推進室を立ち上げ、将来のイノベーション実現に向けた戦略策定力の強化を図る

2012年度の研究成果

また、また、同説明会では、14数種の2012年度の研究成果も披露された。以下で、その中で、実物が展示されていたものをいくつか紹介する。

今回展示された2012年度の成果リスト

1つのレーザーセンサで水平/垂直140度の測距が可能なシステム。用途は自動車の駐発車時や車線変更時の車両周辺監視がメインのため、到達距離は10m程度とのこと。レーザーを使っているが、人の眼にあたっても大丈夫な理由は、ピークパワーを高くしているものの、短パルス化することで、高い性能と眼に安全なクラス1の両立を達成したとする。左と中央の写真がデモの様子。距離が近いほど赤く見える。右の写真がレーザーセンサで、上に乗っている小さな黒い四角状のものはデモ用に普通の光学式のカメラ

水性塗料とリサイクル材料を適用することで環境負荷を低減させたSPARC M10の一部

次世代サーバ/スパコン向けに開発されているメタル線で32Gbpsを実現する技術。技術的には40~50Gbpsであればメタル線で行けるとのことだが、到達距離は30~40cmとのことで、実際にサーバ間通信などで使おうと思うと、接続のための配線のレイアウトに苦労しそうではある。ちなみに同技術はプリント基板側は2層分だけで実現できるため、コスト的なメリットはかなり大きいとみられる

汎用的な10Gbps用光通信部品ながらDiscreate Multi-tone技術を用いることで、1chあたり100Gbps超の伝送速度を実現する技術。8ビットのADC//DACを使っているが、実際には6ビットの利用で実現しているとのこと

同日発表された指で直感的に操作可能な次世代ユーザーインタフェース
次世代ユーザーインタフェースの実際のデモの様子(wmv形式 4.39MB 16秒)

こちらも次世代ユーザーインタフェースのデモ風景。端末の仕組みは富士通マークの後ろにプロジェクタが配置されており、そこから発せられる光により机の上に置かれたもののデータ取り込みなどが行われている。右がスキャン中で、左は携帯電話(PHS)を動かした後も、そこにデータとして端末の映像が残っている様子。この映像データを自由に動かすことなども可能で3次元データとして扱うことも可能となっている