IntelプロセサがFSB(Front Side Bus)を使っていた時代のNVIDIAは、GPUを組み込んだ周辺チップセットの大手メーカーであった。チップセットビジネスの最盛期の2010年度(2009年2月~2010年1月)には、全社の売上33億3000万ドルの中でチップセットは8億7200万ドルと26%の比重を占めていた。
しかし、IntelがFSBからQPIに移った時、そのインタフェースをライセンスせず、NVIDIAはQPI対応のチップセットを作れなくなってしまった。事実、2010年度には8億7200万ドルあったチップセットの売り上げは、2013年度にはわずか2400万ドルに激減している。また、最近ではCPUチップにGPUを集積するのが一般的となってきており、コアゲーマー以外のユーザは外付けのGPUボードを必要としないという状況になってきており、グラフィックスメーカーのNVIDIAの将来性に疑問を抱く向きもある。
しかし、NVIDIAは将来を見据えて手を打ってきており、チップセットビジネスの消滅にもかかわらず、売上高は、2010年度の33億3000万ドルから2013年度には42億8000万ドルに伸ばしている。
NVIDIAはGPUでは強力なポジションを築いており、2014年度(2013年2月~)には、それを利用して新たな50億ドル市場であるGRID分野に進出する。また、Tegra 4とTegra 4iでLTE市場に参入する。この市場は、2017年には5億台/年と現在の3倍に成長するとみられている。そして、Tegraはタブレットやゲーム機、自動車、組み込みなどの用途にも進出する。これらの新分野への進出の投資により、NVIDIAがターゲットとする市場規模(Total Available Market)は200億ドルと、現在の4倍に拡大するというのが全体的なNVIDIAの描く将来像である。
同社のPresident & CEOであるJen-Hsun Huang氏は、ネットワークストレージやCISCOのルーターが出てきた時、それらの用途にはSunの汎用サーバを使っており、専用機能のサーバの必要性が理解できなかったという。しかし、現在では、それらが定着して大きな市場になっている。これと同様に、ネットワーク環境では、グラフィックスに関しても専用のサーバが伸びるとNVIDIAは考えている。これがNVIDIAがGRIDと呼んでいる市場である。
この見積もりは非常に大雑把なものであるが、GRID分野では、計7億人の企業の従業員の内の1.6億人がグラフィックスを使うと想定し、1台のGPUを8人がシェアして使うと想定する。そして、4年ごとにGPUを更新すると考えると、~50億ドル/年の市場が生まれることになる。また、ゲーマーの内の5000万人がクラウドゲームでGPUを使い、5人でシェアすると見込むと市場規模は~25億ドル/年、1000万人のデザイナーが1人でGPUを使うと市場規模は~25億ドル/年という計算になる。これらに科学技術計算のTesla分野の~10億ドル/年を加えると、GPU技術でカバーする市場の規模は~110億ドル/年と見込まれる。
そして、Tegraの市場では、LTE端末が5億台、タブレットが2億台、車が5000万台、モバイルゲーム機が2000万台と想定し、市場規模は~100億ドル/年を見込む。
NVIDIAがこれまでターゲットとして来た市場は上図棒グラフの下の2つの分野で、市場規模は~60億ドル/年であるのに対して、新市場のGRIDとTegraの市場を加えると、市場規模は~210億ドル/年と4倍近くに広がる。
従って、これらの分野への投資を、今、行うことが重要であり、NVIDIAは2014年度にGPUに~10億ドル、Tegraに~6億ドルを投資するという。
GRID分野でNVIDIAが提供する主要コンポーネントは、GRID VGXと呼ぶGPUを仮想化するソフトウェアとGRID機能を付加したGPU、そして、それらをサーバとしてまとめあげたGRID VCA(Visual Computing Appliance)である。
GRIDの使い方としては、企業のセンターにVCAを使うGRIDサーバを置き、インタネット経由で、デザイナーなどはQUADROワークステーション、通常の表示にはTegraやGeForceのPCやタブレットを使用する形態を想定している。
GRIDでカバーする作業としては、デザインやシミュレーション、グラフィックスを必要とする複数人の作業のコラボレーションなどがある。また、基調講演で紹介されたAudiの販売店向けのシステムのような、コンピュータグラフィックスを使ったインタラクティブな商品説明やプレゼンテーションも重要な適用分野である。
Tegraの分野では、携帯ゲーム機のSHIELDの量産を2013年第2四半期に開始し、携帯電話の分野では、LTEモデム内蔵のTegra 4iで先行するライバルを追いかける。
2013年第2四半期にはTegra4を使うゲーム機SHIELDの量産を開始し、LTEモデムを内蔵したTegra 4iを使う携帯は、第2四半期にキャリアの評価が始まり、2014年第1四半期の量産を見込む |
Tegraビジネスは2010年度の売り上げは1億5600万ドルであったが、2013年度には7億6400万ドルに急成長しており、ゲーム機や携帯電話への進出で成長を加速する。
このような作戦で、NVIDIAは~200億ドル市場で大きなシェアを占めるという将来像を描いている。