フリーランスと会社員、どちらが幸せ?

それぞれの自己紹介後、イベントはいよいよディスカッションへと移った。

モデレータを務めたWeb Designing編集長の馬場静樹氏

最初に3年後の自分について聞かれると、伊藤氏も山本氏も自分のプロダクトを作っていたいという点では一致した。ただし、伊藤氏の場合は、その方が将来のためになるからということよりも、今やりたいことが自分のプロダクトを作ることだという思いが強いようだ。一方の山本氏は、「"ロックスター"(大ヒットプロダクトの作成)を目指してもなれる可能性は低い」と極めて現実的だ。「今やっている仕事で最低限暮らせる収入は維持しつつ、余った時間で開発を進めたい」とコメントした。

続く質問は、フリーランスと会社員のどちらが幸せかという点。現在はフリーランスという立場にある両氏だが、これに対しては、「手放しでフリーランスを勧められるわけではない」とした。他者の拘束を受けないのがフリーランスのよいところだが、それは同時に欠点でもあるという。自身の生活を適切に管理し、きちんと生計を立てるのは思ったよりも難しい。また、フリーランスでは何かあった場合の責任も、全て自分でとらなくてはならないという面もあるようだ。

それでは、自己アピールのためにブログを公開するのはどうか。これについては意見が真っ二つに別れた。

山本氏は自己アピールは非常に大切なことで、ブログを書くことも大切だと話す。

「はったり(浅い知識)でもいいので、バズワードについては話ができるように常にアンテナを延ばしておく。詳細については必要になってから学べばよい。そうした話ができないようなら仕事をとってくるのは難しいだろう」(山本氏)

一方、伊藤氏は、ブログは必ずしも生き残るのに必要なものではないと話す。

「たまたまブログという道具があるので使っているが、ブログでなくても、情報発信できる手段があれば積極的に活用していく。そういう姿勢が変化に適応する力の源となる。そもそも、ブログは技術に関する情報発信を行うためのものであって、その結果自己アピールにつながっている。初めから自己アピールを目的として無理矢理ブログを書くようであれば、本末転倒だ」(伊藤氏)

エンジニアが快適に働ける環境とは?

議論が白熱する中、会場からも多くの質問があった。特に、「エンジニアが快適に働ける社風とはどのようなものか」という質問は興味深かった。

フリードリンクであったり、FacebookやTwitterを積極的に活用していたり、といった点はエンジニアの本質的には待遇と関係がないという。大事なのは、どんなことでも合理的に話を進めたいというエンジニアの気質をきちんと理解し、それに向き合うことだ。

例えば、社内に非効率的な"シキタリ"があれば、合理性を求めるエンジニアがそれに異を唱えることもあるだろう。そういった時に管理者は、「"そういうものだから"で終わらせるのではなく、エンジニアが納得のいくようなきちんと筋道のある説明をすることが大切」(山本氏)という。

「以前、"Googleに転職するとブログの更新が止まる"という話がもてはやされたが、これは決してGoogleに止められているわけではなく、スキルの高いエンジニア間でのコードレビューなどで自己承認要求が満たされるために、そうなることが多かったらしい。そういった、エンジニアが認められる環境が大切なのではないか」(伊藤氏)

こうした姿勢がエンジニアのためになるだけではなく、会社の運営にも良い影響を与えるという。

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エンジニアがこれから先生きのこる方法について、伊藤氏と山本氏が共通して伝えようとしていたことは、手を動かすことの大切さだったように思える。

山本氏は、「手を動かさない人が実際に多い中、手を動かすということだけで大きなアドバンテージとなる」と話す。伊藤氏は、「多くのエンジニアがアジャイルから学んでいるように、先が見えない状況でもボトムアップで物事を進めてみることで必ず道が開ける」と話す。

自分はエンジニアとして将来きちんと食べていくことができるのであろうか―そんなことで悩むより、とにかくまずは手を動かしてみることで道は開ける。そんなメッセージが強く打ち出された1時間半であった。

著者プロフィール

本間雅洋

北海道苫小牧市出身のプログラマー。好みの言語はPerlやPython、Haskellなど。在学中は数学を専攻しており、今でも余暇には数学を嗜む。現在はFreakOutに在籍し、自社システムの開発に注力している。

共訳書に「実用Git」(オライリー・ジャパン)、共著書に「FFmpegで作る動画共有サイト」(毎日コミュニケーションズ)がある。