日立システムズは2月21日、疲労科学研究所と共同で、自律神経測定器を活用したクラウド型という国内初の仕組みを持った「疲労・ストレス検診システム」を開発したことを発表した。同日開催された会見において、実際に試す機会をいただいたので、その模様をお届けする。

画像1。自律神経測定器

画像2。両方の人差し指をこのように差し込んでセンサ部分にタッチし、2~3分計測するだけで診断してくれる

今回、日立システムズが疲労・ストレス検診システムを開発した背景には、うつ病などの精神疾患が急増していることが背景にある。データとして紹介されたのは平成8年(1996年)から平成20年(2008年)までのものだが、悪性新生物(がん・腫瘍)、糖尿病、脳血管疾患、虚血性心疾患の4大疾病がほぼ横ばいで来ているのに対し、精神疾患は右肩上がりで増えており、厚生労働省も2011年7月には5大疾病とすることを発表している。

画像3。厚生労働省は、2011年に従来の4大疾病に精神疾患を加えて5大疾病の1つとした

そして、弊誌でもこれまで何度か記事として触れているが、東日本大震災の被災者の方々の間でのストレスが原因と見られる各種疾病の発病が明らかに増えている状況だ(関連記事としてコチラコチラなどを参照していただきたい)。

しかも、東北6県の25万9792人(2013年2月15日現在)の避難者だけでなく、自らも被災者でありながら、一般の被災者を救済するための窓口になっている各自治体の職員、さらに自治体で不足している職員を補うため全国43団体から派遣されている452人の派遣職員らのストレスも大変厳しい状況で、残念なことに2013年1月には派遣者の自殺が新聞で報道される事態にもなっている。

こうした状況を鑑み、日立システムでは被災地の職員や住民のメンタルリスクへの対策を目的に、2012年9月に東北支社内に「震災復興支援プロジェクト」を立ち上げ、疲労科学研究所と共同して、今回のクラウド型の疲労・ストレス検診システムが開発されたというわけである。

役割としては、日立システムズが日立グループのクラウドソリューション「Harmonious Cloud」のデータセンターを利用した「クラウド疲労解析サーバ」を、疲労科学研究所が測定端末の「自律神経測定器」とその診断アルゴリズムという分担だ。

これまでも疲労やストレスの検査は行われていたが、問診チェックと面談チェックという主観的な方式しかなかった。もちろん、両者とも受けないよりは良いが、それぞれ問題点があった。

例えば前者なら、診察を受ける人が意図的な回答が可能(要はウソをつける)、精度を上げるには問題数を増やさざるを得ない(診察そのものが面倒で、ストレスとなってしまう)、自覚がなければ結果に表れないという具合である。後者の場合だと、これまた時間を要するし、対応者が限られるし、利用者にとっても敷居が高いといったデメリットがあった。

そうした課題に対し、今回の疲労・ストレス検診システムでは、自律神経測定器を両手に持ち、両手の人差し指をセンサにあてがい、数分安静にして検診すれば良いというシンプルで手軽な仕組みにすることで解決が図られている(画像4)。

画像4。リラックスして深呼吸しながら計測するとよい

時間を取らないし、ウソはつけないし(ある程度深呼吸などでその場でリラックスすることは可能)、自覚のある・なしに関わらず体の反応としてデータを取得できるし、操作も至ってシンプル、対応者と面と向かって話をしたりする必要がないということで敷居が低いというわけだ。

疲労・ストレス検診システムは心電波と脈波を計測し、自律神経のバランス・強さを診断してストレス状態を把握する仕組みだ。前述した従来型の主観的評価方式のデメリットを解消しているほかにも、「ストレス度を数とでとらえられる(初期傾向を評価できる)」、「操作者によらず精度を保てる」、「診断データはセキュリティ対策の施されたクラウド上に保存される形なので測定端末には一切残らないので秘匿性が確保されている」といった特長がある。

自律神経測定器に関してもう少し詳しく触れていくと、センサには村田製作所が開発したデバイスを搭載(画像5~7)。診断アルゴリズムは疲労評価法としてすでに確立されたものであり、疲労科学研究所の倉恒邦比古代表取締役の実弟で、日本における疲労科学の第一人者である関西福祉科学大学教授の倉恒弘彦医学博士が監修したものが採用されている。

画像5。自律神経測定器のアップ。両手でつかみやすいよう3次元曲面的なデザインになっている

画像6。自律神経測定器の裏面

画像7。人差し指を入れる部分。ブラウンに見える部分がセンサ。ここに人差し指の腹を触れるようにする

そして測定結果は、A4用紙1枚で印刷できるレイアウトでまとめられている(画像8・9)。測定環境・測定者に関する情報が表示される「基本情報・測定情報エリア」、加齢に伴って低下する自律神経強度を各年代の平均値と比較して機能年齢をグラフと合わせて表示する「自律神経機能年齢エリア」、平均心拍数と測定時のゆらぎをグラフ表示する「心拍変動エリア」、リラックス状態か緊張状態かのバランスがカラーバーで表示される「交換・副交感神経エリア」、そして自律神経強度とバランスを基に3段階評価とコメントを表示する「評価エリア」が出力されるという具合だ。

画像8。疲労度測定結果のサンプル。交換・副交感神経はギリギリ基準値内だが、29才にもかかわらず機能年齢が43才のため、注意マークが出ている

画像9。こちらは、当日、モデルとして測定を行った女性の結果。実年齢よりも機能年齢が若く、交換・副交感神経のバランスも取れており、申し分なかった

各個人のデータは前述したようにクラウド上にセキュアに保管されるが、必要な時には履歴・統計解析などを随時行えるようになっており、測定者の状況が時間経過でどう変化しているかを見ることも可能だ(画像10)。企業などに導入した場合は部門ごとの傾向分析もできるし、自治体などで一般住民向けに利用した場合は年代ごとや居住地域ごとの傾向分析なども行えるのである。

画像10。履歴・統計解析。サンプルの日立花子さんは、履歴で一覧すると、注意と要注意のマークしかなく、ストレスが続いていることがわかる

また運用例としては、自治体の場合なら、定期訪問、検診などで測定データを蓄積・分析することで、ケア必要者を早期に発見しやすくなるという(画像11)。企業であれば、メンタルリスクが高い従業員を早期に発見しやすく、迅速なケアが可能になったり、特定の部門が全体的にストレスが高いのであれば、その部門に何らかの問題があるといったこともわかるというわけだ(画像12)。また、ケアを開始した際に、その人の回復状況も確認しやすい点も、疲労・ストレス検診システムの特長である。

画像11。自治体でのシステム活用例の模式図

画像12。企業でのシステム活用例の模式図

提供形態は、「クラウド型」、「導入型」、「ハウジング型」の3種類を用意。クラウド型は自律神経測定器及び通信機器を貸与し、月額利用となる。想定ユーザーとしては、一定期間のみ利用、導入型の前に評価、導入費を抑えて月額定額ので運用、企業/自治体内に個人データを保有したくないといったケースを想定。価格は、測定機材一式、4GLTE通信費用、クラウド環境利用を合わせて(オプションを除く)、初期費用が3万1500円、月額費用が10万5000円。

導入型は、サーバ、自律神経測定器、通信環境をユーザーが買い取る形で、ユーザー環境へ設置することになる。想定ユーザーとしては、企業/自治体内に個人情報を保持したい場合や、同様に企業/自治体内のサーバルームなどに設置したい場合。価格は、オプションを除いて3000万円から(環境によって異なる)。

ハウジング型は、サーバ、自律神経測定器、通信環境をユーザーが買い取る形なのは導入型と一緒だが、サーバの設置箇所が日立システムズのデータセンター内になる。想定ユーザーは導入型に近いが、サーバルームを持たない企業/自治体、運用管理を外部委託したい場合などだ。価格は、個別見積もりとなる。

なおオプションについては、専門スタッフによる担当者への疲労に関する基礎知識・機器操作方法などの「導入時研修」、専門スタッフ・日立システムズが提携している専門医・保健師が担当者からの疑問・質問に対してEメールで回答する「サポートデスク」、同じくスタッフや専門医・保健師による利用者による課題解決のための「ケースカンファレンス」などの運用サポートを用意する形だ(画像13)。

画像13。ただ単に機材などを販売しておしまい、というわけではなく、オプションをつければ、日立システムによるトータルサポートが行われる形だ

売り上げ目標としては、2015年度末で60億円としている。また今後の展望については2つ挙げており、まず教育関連分野への適用を目指すとする。いじめや体罰によるストレス兆候の発見、自律神経失調症・起立性調節障害(不登校)などの疑いの評価、自律神経関与の不定愁訴(原因不明の身体の不調)疑いの評価)などを行えるようにし、児童・生徒・教師の「心の変調」の早期発見に、自律神経機能評価で表現能力に影響されずに客観的に判断する形で役立てたいという。

そしてもう1つが、循環器系疾患の早期発見と予防だ。疲労・ストレスに加えて、「血管年齢」も同時に評価できるようにしたいとする。心電波・脈波との同時計測なので、脈波伝播速度検査が可能になるという。これにより動脈硬化などもわかり、その結果、虚血性心疾患や脳血管障害などの危険性も診断できるのである。また、簡便な測定機器として医療機関への販売も検討しているとした。

なお、筆者も実際に試してみたのでそれをお伝えしたい。脈波の方が計測できないということだったので(両方取れなくても診断できる)、ちょっと人差し指に力を入れてしまったのがよくなかったのか、測定時間150秒で、機能年齢が「48才」と出てショック(笑)。現在43才の筆者、5才も老けていると診断されてしまったのである。この時は睡眠不足でほぼ徹夜状態で少々疲れていたし、人差し指に力を入れていたからだ、と言い訳しておきたい。

一方、交換・副交感神経は、目をつぶって深呼吸をしていたからなのか、カラーバーの最も左側で、0.45で「休息状態」。基準値は0.8~2.0で、それより大きくなると緊張状態となってくるのだが、リラックスしすぎである(笑)。眠かったからか、もしかすると瞬間的に寝落ちしていたのかもしれない気がしないではない。

ともあれ、自律神経評価は「正常」で、交換・副交感神経のバランスはリラックス状態、自律神経機能活動も正常ということである。睡眠や休息には適した状態だが、活動モードに切り替えられない場合があるので、抑うつ、意欲の低下などが見られるようなら、1~2カ月後に再検査を勧めるということであった。今回は眠かった、疲れていたということにしておきたい(画像14)。

画像14。別に正常だったのだが、実年齢より5才も上の機能年齢にはちょっとガックリ。改善策とかアドバイスしてもらえると良いように筆者的には思えた

ともかく、現代日本はストレス社会で、現在うつ病である人、過去に経験がある人、自分自身は経験がなくても知り合いに何人もいる、なんて人も多いはずだ(筆者も周りにうつ病を患った人を何人も知っている)。そうした意味では、手軽に診断できるのは素晴らしいことなので、ぜひ普及してもらい、世の中を精神的に健康にするのに頑張ってもらいたいところである。