国立天文台と東京大学の研究者を中心とする研究グループは1月24日、「逆行惑星」を持つ惑星系「HAT-P-7」に、これまで知られていなかった伴星が存在することを発見したと発表した(画像1)。

成果は、国立天文台太陽系外惑星プロジェクト室 国立天文台フェローの成田憲保特任助教、東大の高橋安大大学院生、同・葛原昌幸大学院生、同・平野照幸大学院生らの研究グループによるもので、国立天文台を中心とする太陽系外惑星・円盤探査の国際研究プロジェクト「SEEDS(Strategic Exploration of Exoplanets and Disks with Subaru Telescope)」による直接撮像観測によってなされた。研究の詳細な内容は、日本天文学会が発行する学術誌「欧文研究報告 PASJ」に掲載済みだ。

画像1はすばる望遠鏡による惑星系HAT-P-7の撮像結果。上からすばる望遠鏡のIRCSで2011年8月に撮られたJバンド(中心波長1.25μm)、Kバンド(中心波長2.20μm)、L'バンド(中心波長3.77μm)と、2012年7月にHiCIAOで撮られたHバンド(中心波長1.63μm)の画像。上が北で、左が東の方角になる。中心の明るい星がHAT-P-7で、東側(左側)に写っているのが今回確認された伴星Bだ。伴星Bは、中心星から約1200天文単位以上離れており、0.25太陽質量程度という軽い恒星であることもわかった。西側(右側)に写っている天体は無関係の背景星である。

画像1。すばる望遠鏡による惑星系HAT-P-7の撮像結果。(c) 国立天文台

HAT-P-7は、すばる望遠鏡が2009年に発見した逆行惑星の存在する惑星系だが、HAT-P-7の逆行惑星HAT-P-7b(惑星b)が、どのようにして逆行軌道になってしまったのかはよくわかっていなかった。

なおここでいう逆行は、惑星の公転の逆行のことを指しており、惑星の公転軸と中心星の自転軸のずれが90度以上の状態で公転している状態をいう。逆に90度以下の場合は順行である。中心星の北極方向から見た場合、巡行なら反時計回りとなるが、逆行の場合は時計回りというわけだ。太陽系の全惑星と多くの衛星は順行している。また、海王星の衛星トリトンは、逆行している衛星として有名だ。

HAT-P-7bが逆行していることを最初に発見した国立天文台フェローの成田特任助教らを中心とする研究グループでは、この惑星bがどのようにして逆行軌道に至ったのかを明らかにするため、SEEDSプロジェクトの一環として2009年からこの惑星系の撮像観測を行ってきた。

研究グループは2009年にまず伴星の候補を2つ発見し、その後3年間にわたって伴星候補の「固有運動」を測定。その結果、1つの候補天体が中心星HAT-P-7と連星系をなす本物の伴星HAT-P-7B(伴星B)であると確認した。恒星は一見すると、惑星などのように動いて見えないが、実際には宇宙空間を移動しており、そのことを固有運動と呼び、連星系は同じ固有運動を持っている。

さらに研究グループは、すばる望遠鏡を用いた「長期視線速度観測」によって、惑星bの外側かつ伴星Bより内側に、別の巨大惑星HAT-P-7c(惑星c)が存在することも確認した(この巨大惑星は木星より重たいことが判明したが、どちら向きで公転しているのかはまだわかっていない)。

すなわち、この惑星系には少なくとも2つの巨大惑星bとcが公転し、さらに遠い外側に伴星Bを持つという姿をしていることがわかったのである(画像2)。

画像2。すばる望遠鏡が明らかにした逆行惑星系HAT-P-7の想像図。(c) 国立天文台

最近になって、米国のアルブレヒト氏らは、惑星bは主星の自転軸を短時間で自身の公転軸と同じ方向にそろえてしまうため、逆行軌道は長期間維持されないはずであるという理論的考察を発表した。これは惑星形成の初期に惑星bが逆行軌道になったとしても、それだけでは現在の惑星bの逆行軌道を説明できないということを示したものだ。

一方、今回の観測により、HAT-P-7には逆行惑星bの外側に別の惑星cと伴星Bが見つかった。複数の惑星・伴星が存在すると、互いに重力的な影響を及ぼすことから、HAT-P-7bの現在の逆行軌道を説明するシナリオとしては、伴星Bや惑星cが惑星bに対して古在機構という現象を引き起こして惑星bの軌道の傾きを少しずつ変化させ、主星の自転軸が惑星の公転軸にそろうのを阻んでいたというものが考えられるようになるという。

すなわちHAT-P-7では、外側にある伴星Bと惑星cの存在、特にそれらによる古在機構がカギとなって逆行惑星HAT-P-7bが誕生したと考えられることが、今回の観測からわかったというわけだ。

画像3は、古在機構とそれによる惑星移動の概念図。元国立天文台長・古在由秀氏(現・ぐんま天文台台長)が1962年に発表した、天体力学の効果(古在機構)を取り入れて考案された惑星の軌道移動モデルだ。

惑星bを持った中心星Aが伴星Bと連星系をなしていて、その伴星の軌道面が惑星の軌道面に対して大きく傾いている時、惑星bは伴星Bからの古在機構を受けて、軌道離心率(軌道が円軌道からどれくらいずれているかを示す値:e)や軌道傾斜角(中心星の自転軸と惑星の公転軸のなす角度:i)が振動する。これを古在振動と呼ぶ。

軌道離心率が大きくなると惑星は中心星の近くを通過することになる。この時、惑星には中心星からの潮汐力が働いて軌道のエネルギーを失い、軌道は中心星に近づいて軌道離心率も小さくなる。これら一連の惑星の軌道移動は、逆行惑星の起源を説明し得るシナリオの1つとして知られている。

画像3。古在機構とそれによる惑星移動の概念図。(c) 国立天文台

もう少し詳しくHAT-P-7bの現在の逆行軌道を説明するシナリオを紹介すると、以下の2つが考えられているという。

まずこの惑星系で惑星bとcが惑星同士の重力散乱(惑星散乱)を起こさなかった場合を考えてみると、この場合、惑星bの逆行軌道を説明するためには、伴星Bがまず外側の惑星cに古在軌道移動を引き起こし、それによって傾いた軌道を持った惑星cが惑星bに古在軌道移動を引き起こすことで惑星bの軌道が大きく傾き、逆行軌道に至ったというシナリオ(連続的古在軌道移動)シナリオだ。

次に惑星形成の後に惑星bとcが惑星散乱を起こした場合。この場合、惑星散乱で惑星bが始めから逆行軌道になる可能性があるが、アルブレヒト氏らの研究結果から、そのまま逆行軌道を維持し続けることは困難なので、惑星散乱後にも惑星cが惑星bに古在軌道移動を引き起こし、少しずつ軌道を変化させたため現在まで逆行軌道を維持できたと考えられるというものだ。

このように、どちらの場合においても HAT-P-7という惑星系では外側の伴星Bと惑星cの存在がカギとなって、内側の惑星bに対して古在機構を引き起こし、その逆行軌道を生み出したと考えられるのである。

今回の成果は、観測による明確な証拠によって逆行惑星の起源について示唆を与える初めてのものになるとのことで、研究グループ代表の成田特任助教は「今回の結果は、1つの逆行惑星系の謎を解くだけでなく、ほかの逆行惑星や軌道の大きく傾いた惑星、軌道離心率の大きな惑星などがどのように形成されるかについても、直接撮像による外側の伴星の存在確認によって理解していく道を開いたものです」と語っている。