情報通信研究機構(NICT)と日立国際電気、アイ・エス・ビーは、TV放送周波数帯(470MHz~710MHz)におけるホワイトスペースを利用する中長距離地域無線(Wireless Regional Area Network)の国際標準であるIEEE 802.22標準規格に準拠した「基地局装置」および「加入者局装置」の開発並びに実証実験に成功したと発表した。
詳細は、1月30日~2月1日に米国マイアミで開催されるSuper Wi-Fi Summitにおいて発表される。
現在、米国FCCや英国Ofcomなどの規制当局をはじめ、日本でも総務省において、ホワイトスペース無線通信システムの実現に向け、技術の検討などが行われている。この中で、特定の利用目的のために割り当てられている周波数において、既存業務(一次利用者)への影響を回避しつつ、柔軟かつ高度に周波数を活用(周波数の二次利用ともいう)するための技術を検討することが重要な課題であり、規制当局が定めた同一チャネルおよび隣接チャネルへの干渉レベル制限値を満たす通信機を開発することが、実用化に向けた大きな技術課題となっている。
特に、比較的干渉回避が行いやすい地方において有線の代替、補助回線として、また、災害時に通信インフラの整備が難しい場合の緊急の無線による通信回線確保などを目的として、無線LANとは異なる遠距離をサポートすることが可能であるホワイトスペースを利用する中長距離地域無線(Wireless Regional Area Network)が米国で検討されており、米国電気電子学会(IEEE)においても、世界で初めてのホワイトスペース利用通信システムの標準化として、ホワイトスペースにおける地域無線システム規格IEEE Std. 802.22-2011が2011年7月に発行された。しかし、この標準規格に準拠した無線機の開発は、欧米各国の規制および規格が制定した機能の制限が高く、開発例がなかった。
今回、NICTと日立国際電気は国際標準規格IEEE Std. 802.22-2011に準拠した物理層(PHY)およびメディアアクセス制御層(MAC)を搭載した、中長距離伝送可能な地域無線システムの「基地局装置」および「加入者局装置」を開発した。同装置では、日立国際電気が開発したIEEE 802.22準拠の物理層(PHY)を含む「基地局装置」および「加入者局装置」に、NICTが開発したIEEE 802.22準拠のMAC層ソフトウェア、干渉回避用ソフトウェアおよびIP通信用ソフトウェアを実装した。また、アイ・エス・ビーが提供する一次利用者と二次利用者の干渉を計算し利用可能な周波数を通信機に知らせるホワイトスペースデータベースに接続し、テレビ放送周波数帯(470MHz~710MHz)において、一次利用者に影響を与えない周波数が自動的に選択され、IPを用いて、無線通信を行うことができることを実証した。なお、同装置における日立国際電気の開発部分は、総務省から受託した「ホワイトスペースにおける新たなブロードバンドアクセスの実現に向けた周波数高度利用技術の研究開発」の成果を利用して実現したものだという。
今回開発された地域無線は、IEEE802.22標準化の利用モデルとして想定されていた半径10~40km程度の距離の通信エリアにおいて、最大20Mbps前後の通信速度を提供する「基地局装置」および「加入者局装置」で、新たに開発されたIEEE Std. 802.22-2011に準拠した、ホワイトスペースを利用するUHF帯で動作する地域無線データ通信デバイスを搭載している。
さらに、今回開発した「基地局装置」および「加入者局装置」には、IEEE Std. 802.22-2011に準拠したMAC層ソフトウェアが実装されている。MACは、ポイントツーマルチポイント接続(単一の「基地局装置」と複数の「加入者局装置」間の接続)による「基地局装置」から複数の「加入者局装置」間に、最大20Mbps前後の通信速度を提供する。また、「基地局装置」から複数の「加入者局装置」への下りアクセスと、複数の「加入者局装置」からの「基地局装置」への上りアクセスを時分割多重(TDM)と直交周波数分割多元アクセス(OFDMA)で行うことで、最適QoSレベルの品質制御をサポート。加えて、米国の規格に準拠して構築されたホワイトスペースデータベースに接続することで、「基地局装置」および「加入者局装置」の位置情報に基づいて、一次利用者に干渉を与えない周波数が自動的に選択される。
NICTと日立国際電気、アイ・エス・ビーは、現在、IEEE 802.22標準化の主要メンバーであり、引き続き、当該技術のさらなる拡張を想定し国際標準化活動を推進していくとともに、ホワイトスペース無線通信システムの業界標準規格/相互認証を行うホワイトスペースアライアンスと協調し、商用化に向けた無線機開発を積極的に進めていくとコメントしている。