横浜市立大学は、米国国立衛生研究所、トルコイスタンブール大学の協力を得て、ゲノムワイド関連解析にて厚生労働省の特定疾患である「ベーチェット病」の新しい疾患感受性遺伝子と発症のメカニズムを発見したと発表した。

成果は、横浜市立大大学院 医学研究科 病態免疫制御内科学教室の石ヶ坪良明教授(厚生労働省ベーチェット病班研究代表者)、同・桐野洋平助教、同大学眼科の水木信久教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、1月6日付けで英国科学雑誌「Nature Genetics」オンライン版に掲載された。

ベーチェット病はぶどう膜炎、皮疹、口腔・陰部潰瘍など全身に発作的な炎症を繰り返す難治性疾患で、厚生労働省の特定疾患に最初に認定され、平成22年3月末時点で、受給者数は1万7290人だ。

患者は日本・トルコなどのシルクロード沿いのアジアに多く、発症には環境因子と遺伝素因の両方が重要と考えられている。最も強い遺伝素因として「ヒト白血球抗原(HLA)-B*51」(多数あるHLA-Class Iの中の1つ)が知られているが、病気における役割はよくわかっていない。ベーチェット病は時には失明に至り、病態解明が急がれている。

横浜市大の研究グループグループは、米国国立衛生研究所、トルコイスタンブール大学と国際共同研究を行い、桐野助教を中心として、日本人・トルコ人計約5000例の患者・健常人の検体を解析した。

トルコ人ゲノムワイド関連解析の情報を、「インピュテーション法」を用いて統計学的に増幅して再解析したところ、新規の疾患感受性遺伝子として、ケモカイン受容体の「CCR1」、転写因子の「STAT4」、ナチュラルキラー細胞受容体の「KLRC4」、小胞体アミノペプチダーゼの「ERAP1」を同定した。

通常は異なる染色体上に存在する遺伝子間に相関は認められないが、ERAP1とHLA-B*51両者の素因を持つとリスクの相乗効果を認めた(エピスタシス)。ERAP1とHLA-Class Iとのエピスタシスは「強直性脊椎炎」と「乾癬」でも報告されている。

ERAP1は小胞体に存在し、HLA-Class Iに乗せるためにペプチドを短くする働きがあることから、ペプチドのヒト白血球抗原への提示過程がこれらの疾患で極めて重要であることが示された(画像)。そしてCCR1とSTAT4近傍の一塩基多型(SNP)は、これらの遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)発現量と関連していることが明らかになったのである。

画像1。ベーチェット病に関与しているERAP1を介したMHC(HLA)-Class I への抗原提示過程(画像は横浜市立大が米国衛生研究所より許可を得て掲載したもの)

研究グループは今回の成果により、見つかった遺伝子や、ERAP1を介したヒト白血球抗原への提示プロセスを標的とした、より副作用の少ない疾患特異的治療薬の開発につながると期待されるとコメント。今後も日本におけるベーチェット病への関心と研究・診療のさらなるレベルアップを目指していくとしている。