京都大学、東京大学カブリIPMU、国立天文台、愛媛大学、シドニー大学らで構成される研究グループは12月26日、爆発的星形成銀河M82からの爆風波として飛び出したガスが、M82銀河本体から約4万光年離れた「M82の帽子」と呼ばれるガス雲に衝突して光っていることを、すばる望遠鏡による観測から突き止めたと発表した。同成果の詳細は天文学誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

銀河の中には、「爆発的星形成銀河」または「スターバースト銀河」と呼ばれる中心領域で激しい星生成現象を経験している銀河がある。そこでは、太陽の数十倍ほどの大質量星が1000万年間におよそ1万個以上生まれ、やがて超新星爆発を起こして死んでいく。その際、銀河中のガスは100万度に加熱された高温ガスの圧力により、銀河の外側へと噴き出していく「銀河風」を発生させるが、この銀河風が一体どこまで拡がっていくのか、あるいは銀河と銀河の間にあるガス(銀河間空間ガス)にどのような影響を与えるのか、といったことはまだ良くわかっていなかった。

今回、研究グループが観測した銀河M82は、地球から約1200万光年とかなり近くにある爆発的星形成銀河で、大規模な銀河風が吹いていることが知られている。そのため、これまで多くの観測が行われてきたが、研究グループは"M82の帽子"と呼ばれる不思議な構造に着目し研究を行った。"M82の帽子"は、銀河本体から約4万光年ほど離れたところにある電離したガス雲で、M82のサイズがちょうど約4万光年であるため、銀河1つ分離れたところに位置するはぐれ雲のようなガス雲である。

これまで"M82の帽子"のガスの電離源としては、2つの説が提案されていた。1つ目の説は、M82本体の星形成領域にある大質量星から放射された紫外線が、"帽子"のガスを電離しているという説。もう1つの説は、M82の銀河風として飛ばされたガスが"帽子"のガスと衝突して衝撃波を起こし、その衝撃波から出た紫外線が"帽子"のガスを電離したという説だ。

もし"帽子"のガスが衝撃波によって電離されているのであれば、銀河風が銀河本体から約4万光年も離れた銀河間空間ガスに影響を与えていることになる。研究グループでは、これまでの観測から、M82の銀河中心部の紫外線の明るさや銀河風の強さは判明していることから、"帽子"の電離ガスから放射されるHα輝線の明るさや分布を調べることで、どちらの説が正しいかを明らかにすることができると考え、観測を行った。

具体的には、すばる望遠鏡に搭載されている京都大学などが開発した観測装置「京都三次元分光器第2号機」を活用して"M82の帽子"のHα輝線の強度分布を高精度に観測した。

得られたHα輝線強度分布図から、電離ガスは"帽子"の領域全体に広がっているのではなく、300光年から500光年の大きさの塊状であることが判明した。そこで研究グループは、"帽子"の電離源を明らかにするために、塊のHα輝線の明るさに着目してさらなる調査を実施。その結果、1つ目の大質量星からの紫外線説では、観測された塊のHα輝線の明るさの約10%しか説明できないことが判明した。一方、2つ目の銀河風による衝撃波説で予想されるHα輝線の明るさと、観測されたHα輝線の明るさがよく一致することが確認され、これにより"帽子"のガスは、銀河風が"帽子"ガスにぶつかる際の衝撃波によって電離されていることが示された。

(左)M82全体のHα輝線強度分布図。等高線はX線強度を表している。図左下にある明るい領域がM82の銀河中心で、図右上にHα輝線とX線で弱く光っている領域が「帽子」 ((C)Lehnert et al. 1999, The Astrophysical Journal, 523, 575の図を一部改変)
(中)「帽子」領域の連続光強度分布図。図で見えているのは銀河系内の星かM82よりもずっと遠くにある銀河で、「M82の帽子」からの連続光は検出されなかったという
(右)「帽子」領域のHα輝線強度分布図。「帽子」からのHα輝線が検出され、「帽子」のガス雲が塊状であることが分かる (C)国立天文台

この成果は、M82本体から銀河風として飛び出したガスが、銀河1個分に相当する約4万光年の距離を飛んで、"帽子"のガスと衝突していることを示唆するもので、M82から吹き出している銀河風は少なくとも約4万光年離れたところまで直接影響を及ぼしているかを明らかにしたものとなった。

「帽子」ガス雲電離メカニズムの2つの説の模式図。左がM82本体の星形成領域にある大質量星からの紫外線によって電離されている場合。右がM82から銀河風として飛び出したガスと「帽子」のガス雲の間の、衝撃波から放出された紫外線で電離された場合 (C)国立天文台

なお、研究グループでは、銀河風がそれほどの影響力を持った現象であり、銀河間空間ガスに大きな影響を与えるものであることを示すものであることから、今後、もっと遠くのガス雲まで影響を及ぼしている例があるのかどうかを調べるために、銀河本体からさらに離れた場所で、銀河風によって電離されたガス雲の探査を行っていく予定とコメントしている。