基礎生物学研究所(NIBB)は12月20日、マメ科植物と根粒菌の共生の場である「根粒」が、根から分化する過程を制御する新たな遺伝子を発見したと発表した。

同成果は、同研究所 共生システム研究部門の寿崎拓哉助教と川口正代司教授らの研究グループによるもので、詳細は生物学専門誌「Development」オンライン速報版に掲載された。

マメ科植物に代表される一部の植物は、根に形成される"根粒"を介して土壌細菌の根粒菌と「根粒共生」と呼ばれる相利共生関係を築いている。植物の根から根粒が分化するためには、根粒の器官形成だけでなく根粒菌の感染プロセスも同調的に進行することが必要だ。近年、マメ科のモデル植物であるミヤコグサやタルウマゴヤシを用いた研究によって根粒共生に関わる遺伝子がいくつか同定されてきたが、その多くが根粒菌の植物への感染過程の制御に関わる遺伝子であり、実際に根粒の形づくりがどのような遺伝的なプログラムによってコントロールされているかについては、ほとんど明らかになっていなかった。

これまでの研究により、根粒の器官形成の進行には植物ホルモンの1つである「サイトカイニン」の信号伝達が活性化されることが重要であることが判明していた。今回の研究では、ミヤコグサを研究材料にして、このサイトカイニンの信号伝達の活性化の影響がみられなくなるような突然変異体のスクリーニングを実施。その結果、新たな変異体「tricot(tco)(トリコ)」を単離することに成功した。

ミヤコグサのspontaneous nodule formation 2(snf2) 変異体では、サイトカイニンの信号伝達が常に活性化していることにより、根粒菌が感染しなくても根粒に類似した構造(自発的根粒と呼称)が根から分化する。それに対して、tco変異が加わると自発的根粒の形成が抑えられることが判明した。

tco変異体に形成される自発的根粒。ミヤコグサのsnf2変異体では、根粒菌の非存在下でも自発的根粒と呼ばれる根粒様の構造(矢じり)を形成する。一方、snf2変異体にtco変異が加わると、自発的根粒の数(A)とサイズ(B)がともに減少することが判明した

また、tco変異体では根粒菌の感染により誘導される通常の根粒形成も起こらなくなることから、TCO遺伝子は根粒の分化を促進する機能を持つことが明らかとなった。さらに、tco変異体では根粒形成だけでなく、多面的な異常が見られ、葉や茎などの側生器官の分化を司る「茎頂分裂組織」の活性の維持が異常になっていることも判明した。

tco変異体の地上部の表現型。tco変異体では同じ発生段階の野生型と比べて多くの葉を分化する(A、B)。また、茎頂分裂組織(矢じり)のサイズが増加していることもわかった(C、D)

加えて、tco変異体の原因遺伝子を特定したところ、カルボキシペプチダーゼと呼ばれるタンパク質の切断に関わる酵素をコードしていること、ならびに同酵素はシロイヌナズナやイネなど他の植物では茎頂分裂組織の維持制御に関わることが知られているタンパク質と構造が類似していることが判明した。

地球上には多種多様な植物が存在しているが、その中でも、どうして主にマメ科だけが根粒をつくることができるのか、その理由ははっきりわかっていない。同研究グループはこれまでにも「KLAVIER(KLV)」と名付けた遺伝子がこの共通した制御に関わることをなども発見してきた経緯から、植物の進化の仮定の中で、TCOやKLVのような茎頂分裂組織の制御に関わる遺伝子を根粒形成に流用したことが、マメ科植物が根粒をつくる能力を獲得するに至った1つの要因になった可能性が考えられるとしている。

そのため研究グループでは、今後の研究の進展により、根粒形成に関わる遺伝子がさらに特定され、それらの遺伝子の働きを調べることで、植物の進化の過程で根粒共生がどのようにして誕生したのか、その謎が解明されることが期待されるとコメントしている。