京都大学(京大)は、同大と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が共同で推進している「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISINGプロジェクト」の一環として、リチウムイオン電池に用いられる電極最表面における挙動の、電池作動条件下でのその場観察に成功し、蓄電池劣化の初期過程を明らかにしたと発表した。
同成果は同大の高松大郊 特定研究員、小山幸典 特定准教授、折笠有基 助教、荒井創 特定教授らの研究グループによるもので、10月12日付の独化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載された。
リチウムイオン電池はエネルギー問題の解決の鍵の1つとして期待されており、その性能改善が期待されている。特に電気自動車をはじめとする使用期間の長い用途では、寿命特性の向上が強く求められてる。リチウムイオン電池の劣化につながる大きな要因として、リチウムイオンが電極と電解質の間の界面を通る際の反応障壁の存在が知られており、電池が作動している際の界面の挙動を観察し、反応障壁を下げる有効な改善策を講じることが重要となっている。しかし電池作動条件下で、ナノメートルオーダーの界面領域を有効に観察する手法がなく、適切な解析手法の開発が望まれていた。
今回の研究では、材料の電子・局所構造を捉えるX線吸収法(XAS)を用い、電池の充放電を行いながら界面のナノ情報が得られる実験系を構築し、界面挙動の解明に挑んだ。X線源には大型放射光施設SPring-8の高輝度放射光を用いることで、電池構成要素の中から、狙った界面の情報を適切に得ることが可能となり、具体的にはリチウムイオン電池正極に多く用いられるLiCoO2を取り上げ、界面が見やすいように平滑な薄膜を用いた実験が実施された。
LiCoO2電極を電解液に浸漬した前後でXAS測定を行ったところ、電極表面からの深さ数十nmの電極バルク部分では、変化が観測されなかったのに対して、電解液に接した電極最表面では、コバルト種が還元していることが判明した。
また充放電を行ったところ、バルク部分では可逆性良く反応が進行するのに対し、最表面部分では不可逆的な挙動が見られた。この現象に対し、研究グループでは、これは電解液浸漬時のコバルト種の還元が、その後の円滑な電極反応の妨げにつながることを示すものと説明する。
さらに従来予想されていなかった最表面コバルト種還元の妥当性を調べるため、量子力学に基づく理論計算手法によるエネルギー評価を行ったところ、電解液中の有機溶媒がLiCoO2電極の最表面に作用して、有機溶媒の酸化とコバルト種の還元が同時に起こることが、理論計算上でも確かめられたという。
今回の成果である電極最表面における挙動は、従来のバルク観察手法や解体分析手法では分からなかった重要な知見であり、研究グループでは今後、電極表面の修飾や、電解液の分解抑制材の検討に役立て、リチウムイオン電池の長寿命化・高性能化を目指すとしているほか、同知見を活かして、リチウムイオン電池に代わる高性能な革新型蓄電池の開発を進めて行くともコメントしている。