ユンケルなどで知られる佐藤製薬のライフスタイル研究所は10月22日、長年、毛髪の代表的な加齢変化である「薄毛」についての研究を進め、「毛乳頭細胞」からの発毛促進因子「VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor:血管内皮増殖因子)」産生を指標として、発毛促進に有用なワカメ胞子葉由来の「メカブエキス」およびアマゾンハーブである「ペルーバルサム抽出オイル」に発毛促進の効果があることを見出したと発表した(画像1・2)。

画像1・2は、メカブおよびペルーバルサムによるVEGF産生促進作用の結果をまとめたグラフ。毛乳頭細胞にメカブエキスおよびペルーバルサム抽出オイルを添加して培養後、培養上清を採取したもの。培養上清中のVEGFタンパクの産生量をELISA法にて定量されている。

画像1がメカブエキスによるVEGF産生促進作用で、画像2がペルーバルサム抽出オイルによるVEGF産生促進作用。メカブエキスおよびペルーバルサム抽出オイルを毛乳頭細胞に添加した時、VEGFタンパクの産生が添加濃度依存的に有意に促進された。

画像1。メカブエキスによるVEGF産生促進作用

画像2。ペルーバルサム抽出オイルによるVEGF産生促進作用

ペルーバルサム抽出オイルの作用についてはオイル中の成分である「オイゲノール」および「安息香酸ベンジル」が関与し、これらの成分もVEGFの産生量を有意に増加させることが確認された(画像3)。

画像3は、ペルーバルサム抽出オイル中の成分のオイゲノールおよび安息香酸ベンジルによるVEGF産生促進作用の結果をまとめたグラフ。ペルーバルサム抽出オイル中に含まれていることが確認されている成分を培養した毛乳頭細胞に添加し、培養後、培養上清を採取した。培養上清中のVEGFタンパクの産生量をELISA法にて定量している。

文献などで報告されているペルーバルサム抽出オイル中の成分によるVEGF産生促進作用を検討した結果、オイゲノールおよび安息香酸ベンジルが添加濃度依存的に有意にVEGFタンパク産生を促進することが見出された形だ。

画像3。オイゲノールおよび安息香酸ベンジルによるVEGF産生促進作用

さらに、ペルーバルサム抽出オイルの作用を詳細に検討するとペルーバルサム抽出オイルが毛乳頭細胞からのVEGF産生促進を介して代替毛母細胞の増殖を促進し、一方、メカブエキスは直接代替毛母細胞に働きかけて増殖を促進することで発毛に寄与することが発見された。(画像4・5)

画像4は、メカブエキスによる代替毛母細胞増殖促進作用をまとめたグラフ。正常ヒト表皮角化細胞(代替毛母細胞)にメカブエキスを添加して培養後、「alamar blue assay」により細胞増殖を評価したものだ。その結果、メカブエキスを直接代替毛母細胞に添加することで細胞増殖が有意に増加した。

そして画像5は、ペルーバルサム抽出オイルによる毛乳頭細胞を介した代替毛母細胞増殖促進作用をまとめたグラフだ。毛乳頭細胞にペルーバルサム抽出オイルを添加して培養後し、培養上清を採取したもの。培養上清を正常ヒト表皮角化細胞(代替毛母細胞)に添加、培養後、alamar blue assayにより細胞増殖の評価が行われた。

ペルーバルサム抽出オイルを添加した毛乳頭細胞培養上清を代替毛母細胞に添加することで、細胞増殖が有意に増加したことが確認されている。また、データには示されていないが、ペルーバルサム抽出オイルが代替毛母細胞の増殖に影響を与えないことも確認された。さらに、この反応系にVEGFの作用を抑制するanti-VEGF中和抗体を同時に添加したところ、代替毛母細胞の増殖促進作用が抑制される結果となったのである。

以上の結果より、ペルーバルサム抽出オイルは毛乳頭細胞に作用し、毛乳頭細胞からのVEGF産生を促進することで毛髪の素となる毛母細胞の増殖を促進すると推測された。

画像4。メカブエキスによる代替毛母細胞増殖促進作用

画像5。ペルーバルサム抽出オイルによる毛乳頭細胞を介した代替毛母細胞増殖促進作用

毛乳頭細胞は、毛髪の「毛周期」(成長期→退行期→休止期→成長期…の繰り返しのプロセス)を動かす因子を産生する司令塔としての役割を担っており、種々の因子の増減が発毛や脱毛を左右することが知られている。

毛髪の毛周期を動かす因子の中でVEGFは毛乳頭細胞から放出される因子の1つで、毛周期の成長期維持因子として知られており、「毛周期の退行期への移行」・「加齢」・「脱毛症患者の頭部組織」において減少していることから、発毛に関わる重要な因子と考えられている次第だ。

今回の研究は、毛乳頭細胞からのVEGF産生を指標として発毛促進に有用な素材を探索したところ、約300種の植物エキスの中からワカメ胞子葉由来のメカブエキスに、VEGF産生促進作用があることが見出された。

また同様に、種々の生理作用を有することが知られているアマゾンハーブ(南米アマゾン流域に生息する薬用生薬の総称)の抽出エキス約100種の中で、ペルーバルサム抽出エキスがVEGF産生量を増加させることを明らかにしたというわけだ。

また、ペルーバルサム抽出オイルに含有している成分の中で、オイゲノールおよび安息香酸ベンジルが、その効果に関与していることを見出し、さらに、詳細な解析により、メカブエキスは代替毛母細胞に直接働きかけて増殖を促進すること、ペルーバルサム抽出オイルは毛乳頭細胞からのVEGF産生促進を介して、代替毛母細胞の増殖を促進することが発見されたのである。

今回の研究成果については今後、新たに開発するヘアケア商品に活用していく予定としている。また、研究成果は、2012年8月18日・19日に開催された第30回日本美容皮膚科学会総会・学術大会および同年9月17日・18日に開催された日本生薬学会第59回年会にてそれぞれ発表され、特許も出願中とした。