日本マイクロソフトとニチイ学館は10月1日、医療機関向け事業における業務提携契約を締結したことを発表した。これにより両社は、ニチイ学館のネットワークを通じた人的サービスと、日本マイクロソフトのITを活用した新たな医業環境支援サービスを共同で開発し、提供していくこととなる。
日本における医療費の増大に対し、各種の抑制政策などが進められており、電子カルテ化もその1つだ。しかし、病院全体での導入率は14.3%(検査・処方などにかかるオーダリングシステムでも26.4%)とまだまだ低いほか、導入済みの医療機関であっても、複数のシステムを連携させる互換性の確保の難しさや、システムを使いこなせる人材の不足などの問題が生じており、必ずしも電子カルテを活用しているとは言えない状況となっている。
ニチイ学館は、医療機関や介護サービス向けに医療事務スタッフの派遣や、診療行為の周辺サービスの提供を行ってきており、現在は約1万件の契約医療機関に対し、5万名の医療事務スタッフを派遣してきた。今回の提携第1弾として10月1日付けで国内初の手術室向け非接触型画像操作システム「Opect」の提供を開始し、サービスの分野の拡大を図る。
従来、手術中に執刀医が患者のさまざまな情報を端末上で確認するためには、減菌器具を外し、術野を離れ、執刀医が端末を操作するか、サポートスタッフを待機させ、都度、指示を出して操作を補助するといった作業が必要があった。執刀医が頻繁に術野を離れるわけにはいかないほか、サポートスタッフを介する操作は、執刀医が意図する情報が正確に伝わりにくく、高度な技術を要する手術になればなるほどリスクが高くなる傾向があった。そのため術野に居ながら、さまざまな情報を閲覧できる情報提示装置や手術支援システムなどを執刀医が自ら操作できる仕組みが求められていたのである。
OpectはMicrosoftのKinect for Windowsを活用したシステムで、ジェスチャーなどを活用することで、術野に居ながらにして端末に触れることなく、必要な情報にアクセスすることが可能になるとしており、すでに東京女子医科大学にて活用されているという。
「Microsoftのテクノロジーの魅力は、既存の医療システムと連携しやすい柔軟性と、タブレットやスマートフォンなどの新たなシステムへの対応が早いこと」とニチイ学館の齊藤正俊 代表取締役社長は語る。こうしたIT技術を活用して、医療機関の経営健全化に向けた「経営支援サービス」として経営者向けに経営データの見える化や業務プロセスの適正化に向けた各種サービスの提供、医療提供体制の整備に向けた「診療支援サービス」として医師や看護師に向けた業務の効率化やコミュニケーションの活性化に向けた各種サービスの提供、そして地域との医療連携を目指した「地域連携サービス」として介護施設や地域そのものに向けた診療情報の共有化や地域のつなぐ化に向けたサービスの提供といった3種類のサービスを提供するとしており、2012年12月には第2弾の連携サービスとして、医療機関向けクラウド型グループウェア「メディクラウド」の提供も開始する計画とする。
同グループウェアは、経営支援サービスおよび診療支援サービスの1つとして提供されるもので、Microsoft Office 365とクラウドプラットフォーム「Windows Azure」を基盤に、医療現場におけるニチイ学館の経験や知識を集約して開発されたもの。メールやスケジュール管理などのほか、医療機関特湯の課題を解決可能なさまざまな機能が提供されるとしている。
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3つの医療環境支援サービスのロードマップ。3つ目の「地域連携サービス」は、現在両社にてどういったサービスの提供が可能かどうかの話し合いが行われており、決して電子カルテデータの共有といったもののみということではなくなるという |
メディクラウドの概要 |
なお、Opectの価格は49万8000円、メディクラウドの価格は初期費用が31万5000円、基本システム管理費用が1万500円/月(クラウドサービス利用料は別途。提供価格はあくまで予定価格であり、変更の可能性もあるという)となっている。