動作中の蓄電池に中性子を照射しながら、構成材料の原子配列をリアルタイムで観察する世界初の蓄電池専用解析施設「RISING中性子ビームライン(SPICA)」(注)が、茨城県東海村にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)と日本原子力研究開発機構(JAEA)の大強度陽子加速器施設「J-PARC」内の物質・生命科学実験施設に完成した。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、革新型蓄電池先端科学基礎研究事業「RISING(Research and Development Initiative for Scientific Innovation of New Generation Batteries)事業」(2009-15年の7年計画、10大学・4研究機関・12企業が参画)の一環として建設したもので、同事業により「2030年に1キログラム当たり500ワット時(現状比5倍)のエネルギー密度を有する革新型蓄電池の実現を目指す」という。

完成した「RISING中性子ビームライン(SPICA)」は、J-PARCの世界最高強度のパルス中性子を利用し、蓄電池を構成するさまざまな材料中の原子配列を調べ、組成と構造を分析する。リチウムや酸素といった軽い元素が関係した蓄電池の反応状態や、長期間保存された蓄電池の劣化の仕組みなどを解明し、電極などの材料開発に迅速にフィードバックしながら革新型蓄電池の開発につなげる。

なお、マンガンや鉄、コバルトなどの重い元素の挙動を精密に観察する施設として「RISING放射光ビームライン(BL28XU)」が今年4月、兵庫県佐用町にある大型放射光施設「SPring-8」内に完成し、運用を始めている。「RISING中性子ビームライン(SPICA)」と併用することで、充電中や放電中の実動作状態にある蓄電池の中で何が起きているのか、原子レベルで明らかにすることが可能になるという。

※ SPICA(スピカ):語源の由来は乙女座のα星「SPICA(スピカ)」。スピカは2つの星が互いの重心の周りを回る連星で、複数の組織が連携し、プロジェクトを円滑に進める象徴として命名したという。

関連記事

ニュース【J-PARC世界最強度のミュオン発生】

ニュース【J-PARC用の高性能中性子検出器開発】