東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)は8月28日、同機構のRobert Quimby特任研究員を含む米国南カリフォルニアのパロマー山天文台自動サーベイプロジェクト「Palomar Transient Factory(PTF)」チームが、白色矮星が「回帰新星」と呼ばれる小規模の爆発を何度か繰り返した後にIa型超新星爆発を起こしたと考えられる観測結果を得たことを発表した。研究の詳細な内容は、8月24日付けで米国科学誌「Science」に掲載された。
Ia型超新星と呼ばれる星の大爆発は、非常に明るいため宇宙の遠方で起こったものでも観測することができ、またどこで発生してもほとんど同じ明るさで輝くため、宇宙の「標準光源」として遠方の天体の地球からの距離を決めるために活用されている。
一方、天文学者の間では、Ia型超新星は、連星系の白色矮星の熱核融合による爆発であると考えられていたが、白色矮星と連星をなす伴星の正体はこれまで明らかになっていないことが問題となっていた。
これまでのIa型の超新星の観測例では、小規模爆発を繰り返すために欠かせないガスを白色矮星に供給する赤色巨星の伴星の証拠が見つかっていなかったが、今回の観測結果により、その証拠を得ることに成功。この証拠は暗黒エネルギーの存在を導き出すカギとなった「標準光源」に見られるバラつきを理解する手がかりになるかも知れないという。
PTFチームは、パロマー山天文台の1.2m望遠鏡で同じ領域を繰り返し撮影したデジタル画像をコンピュータで処理し、その中に現れるわずかな変化を探し出す作業を進めており、2011年1月16日、やまねこ座の方向、地球から約6億光年の距離の銀河の中に、これまで見られなかった明るい天体が出現したのを発見し、「PTF11kx」と名付けていた(画像1・2)。PTFチームは数日後からこの天体の分光観測を開始し、この天体の種類、組成、地球からの距離の調査を行ったのである。
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超新星PTF11kxは、やまねこ座にある地球から約6億光年先の銀河に出現した。画像1(左)は、超新星出現前の銀河のスローン・デジタル・スカイ・サーベイによる画像。画像2(右)は、超新星の最も明るい時期の画像。LCOGT Faulkes 北望遠鏡による。(c) B.J. Fulton, LCOGT |
分光データからは、この天体はIa型の超新星だということがわかったが、同時に奇妙な点も浮かび上がってきたという。というのも異常に強く鋭い吸収線が見られたためで、観測チームは周囲に比較的速度の遅いガスがあり、超新星爆発からの光の内、熱いガス中のイオンによりある波長の光だけが吸収されたのだと考えた。もしガスが超新星の十分近くにあるのであれば、超新星爆発から放出された物質がいずれガスに衝突すると予想したのである。
PTFチームは詳細な分光観測を続け、およそ1カ月後に鋭い吸収線が輝線に変化するのを確認。このことは超新星から放出された物質が近くに分布しているガスに突入したことを示すが、別の吸収線がさらに遅い速度を示しており、こちらは消えることがなかった。このことから、少し遠い距離に別のガスの層があるという推測がなされたのである。
この超新星の周辺にいくつものガスの層があるという事実が何を表しているのかがわからなかったとのことで、さらに検討を重ねた結果、今回の論文の主著者であるB.Dildayらのチームが、もし超新星の起源となる星が小規模の爆発を繰り返しているとすれば、観測結果を説明できることを突き止めたのである。
小規模爆発を引き起こすガスは、白色矮星の伴星である赤色巨星から供給される。伴星から放出され、白色矮星に降り積もったガスを燃料として定期的に小規模な爆発を引き起こす。この現象は「新星(nova)」と呼ばれる。ただし、新星の爆発の規模は白色矮星や伴星を吹き飛ばすほどではなく、降り積もったガスを吹き飛ばしてまた同じ現象を繰り返すレベルだ。吹き飛ばされる量より降り積もった量の方が多い場合、白色矮星の質量が増してゆくことになり、最終的に白色矮星の質量が限界に達するほど大きくなって、超新星(supernova)を引き起こしたというわけだ(画像3)。
画像3は、小規模爆発を繰り返した後に超新星PTF11kxになる連星系の想像図。右手の赤色巨星の外層がはぎ取られ、白色矮星の周囲の円盤を形成している。これらの物質が白色矮星に降り積もってゆき、数十年ごとに小規模爆発の新星現象を引き起こす。それでも、物質は完全に飛び散らないので最終的には多量の物質が白色矮星に降り積もり、その質量が限界に達すると、Ia型超新星爆発を引き起こし、白色矮星は完全に飛び散ってしまうという。
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画像3。小規模爆発を繰り返した後に超新星PTF11kxになる連星系の想像図。(c) Romano Corradi and the Instituto de Astrofísica de Canarias |
超新星爆発がこのような起源で引き起こされた場合、小規模爆発で飛び散った比較的遅い速度のガスの層が超新星の周囲に存在することが説明できる。小規模爆発のガスの層が拡がってゆくと、伴星から吹き出している物質の圧力でガスの層が減速されるので、外側の層に行くほど速度は遅くなるというわけだ。
PTFチームは1000個のIa型超新星を観測してきたが、これまではPTF11kxの様なデータは観測されていなかったという。これまでにも星間物質と衝突した形跡は見られていたが、小規模爆発の繰り返しと関連づけられるものはなく、超新星の起源が何か、ということは明らかになっていなかった。
例えば、PTFチームが2011年におおぐま座の渦巻き銀河「M101」(地球からの距離2700万光年)で発見したIa型超新星「2011fe」は超新星としては地球からの距離が近く、もし赤色巨星の伴星があれば、爆発前にハッブル宇宙望遠鏡で観測した画像を解析して見つけられるはずだが、観測データの中には見つからなかった。
また最近の研究グループの銀河内での超新星残骸の観測では、白色矮星の爆発後に生き残っているはずの伴星を見つける試みが続けられているが、詳しく調べても、そのような星はまだ見つかっていないという。これらの観測結果から、Ia型超新星爆発を起こす伴星には、いくつかの種類があることが推察されている。
超新星爆発の理論的研究を行っているカブリIPMUの野本憲一特任教授は、今回の発見を白色矮星と赤色巨星の連星が何度かの小規模爆発の後にIa型の超新星爆発を起こしたという観測的証拠として、「素晴らしい発見」とコメントしている。このような超新星の仕組みは東大の蜂巣泉准教授、慶應義塾大学の加藤万里子教授、そして野本特任教授のグループによる理論研究で予言されており、ほかのIa型超新星でなぜ伴星が見つからないのか、についての理論モデルも提唱がされている。
Ia型の超新星は暗黒エネルギーの性質を解明する「標準光源」として利用されているため、その起源である連星系が、いくつかのバリエーションを持つことについては重要な意味を持つとのことで、野本特任教授は「Ia型超新星をさらにたくさん観測して伴星の情報を集めてゆくことが必要だ。PTFはこの点で非常に重要な役割を果たすだろう」と述べている。
またQuimby特任研究員は、「最近の数十年間、Ia型の超新星は宇宙の研究のための重要な道具として使われてきたが、これでようやく爆発がどのように引き起こされるかを理解するスタート地点に立つことができたので、今回のPTFチームの発見は重要だ」とコメントしている。
画像3の想像図をアニメーション化したもの (c) Romano Corradi and the Instituto de Astrofísica de Canarias) |