生理学研究所(NIPS)は8月9日、霊長類の脳の中に、「光沢を見分ける」特別な神経細胞群があることを発見したと発表した。

成果は、NIPSの西尾亜希子研究員、小松英彦教授ら研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、8月1日付けで米国神経科学会誌「The Journal of Neuroscience」電子版に掲載された。

人は、ものを見ただけで、その「質感」を判別している。中でも、「キラキラ」や「ピカピカ」、「テカテカ」といったものの「光沢」は、見ただけで脳の中で瞬時に判断しているが、その脳内での仕組みそのものはわかっていなかった。

研究グループは、同じ形で33種類の光沢を持つ物体をコンピュータグラフィックスで作成。この33種類の物体を、ニホンザルに見せた時の脳の活動を記録した。

その結果から、脳の「大脳腹側高次視覚野」の「下側頭葉」と呼ばれる部分に、光沢に応じて反応する神経細胞群があることをつきとめた。神経細胞群の中の細胞は役割分担して、鏡面反射や拡散反射などの度合いに応じて、「鋭く輝くもの」、「ぼやけた光沢を持つもの」、「艶のないもの」、といったものの光沢の違いを判別していたのである(画像1~3)。

画像1。脳の中の特定の神経細胞で光沢を見分けているが今回の研究で判明した

画像2。33種類の異なる光沢を持つ同一物のCG。この33種類を見せた時のニホンザルの脳の反応が記録された

画像3。光沢を判別する神経細胞の電気応答の1例。この神経細胞は、形によらず「鋭い反射を持つ、つるつるした表面の物体(鋭く輝くもの)」の画像に強く反応。このように特定の光沢を見分けて反応する細胞が多数見つかった

記録された光沢を判別する神経細胞群の活動を分析して、これらの神経細胞が、どのように光沢を見分けているかを分類したのが、画像3だ。この画像では、左の方に「鋭く輝くもの」、右下は「ぼやけた光沢を持つもの」、右上は「艶のないもの」が集まっており、これらの神経細胞の活動がさまざまな光沢を系統的に表現していることがわかる。

また光沢は、入射光に対する拡散反射、鏡面反射、ラフネス(広がり)という3種類の反射パラメータの組み合わせによって変化させることが可能だ(画像4)。

画像4。光沢の判別の分類

画像5。3種類の反射パラメータの変化による光沢の変化

今回の発見に対して研究グループの小松教授は、「今回、霊長類の脳の大脳腹側高次視覚野にある特殊な脳神経細胞が、光沢を見分ける機能を持っていることが明らかとなった。光沢はものの質を表す重要な視覚情報で、ものの価値判断にも影響を与える。おそらく進化の過程で獲得された脳の機能だと考えられ、金や銀の美しい輝きを感じる時にも、こうした光沢を見分ける脳の仕組みが働いていると考えられる」とコメント。

また将来的には、こうした生体の優れた質感認識機能を模擬した自動的・効率的な質感分類・同定システムへの応用、濡れているかどうかなどの表面状態を瞬時に察知して適応的に動作・行動するロボットシステムへの応用、そのほか、さまざまな分野(アート、エンターテイメント、工業デザイン、広告、デジタルアーカイブなど)において、豊かな質感の生成・再現を実現するための技術の開発などへ繋がると期待されるとしている。