慶應義塾大学(慶応大)は8月7日、熊本大学、名古屋大学、再春館製薬所との共同研究により、マウスの皮膚をお湯につけることでシワを防げること、同時に熱によって体内で増える「熱ショックタンパク質70(HSP70)」が重要な役割を果たしていることを発見したと発表した。
成果は、慶應大慶應大学薬学部の水島徹教授らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、皮膚科学の分野で最も権威のある米国科学雑誌「Journal of InvestigativeDermatology」に掲載されると共に、9月19日からイタリアで開催される、欧州研究皮膚科学会で発表される予定だ。
シミと並んで肌の主な悩みになっているシワの原因は、皮膚にあるコラーゲン層の減少および劣化だ。肌のクッションの役割を果たしているのがコラーゲン層で、クッションが薄くなったり、弾力がなくなったりするとシワができると考えれば理解しやすい。
シワの最大の原因は紫外線だ。紫外線を浴びることでコラーゲンはその質が劣化し、生産量が減ってしまったり、コラーゲン分解酵素が増えてしまったりして、その結果、シワが生じてしまうのである。
一方、熱ショックタンパク質(HSP)は、細胞が熱などのストレスを受けると細胞内で作られるタンパク質の1種だ。熱だけでなく、毒物や紫外線などさまざまなストレスを受けると増え、細胞をストレスに強くすることが知られている。
HSPにはさまざまな種類があるが、中でもHSP70は細胞を保護する作用が最も強い点で注目されているHSPだ。研究グループでは以前から、皮膚におけるHSP70の働きを研究し、紫外線による皮膚の傷害を抑えたり、紫外線によるシミ(メラニンの過剰な生産)を抑えたりすることを発見してきた。
こうした結果は、HSP70を増やす物質が理想的な抗シミ化粧品になることを示している。ちなみにメラニンは紫外線から皮膚を守る働きをしているため、単にメラニンの生産を抑えるだけの抗シミ化粧品は、紫外線による皮膚傷害を悪化させてしまうので抗シミという点ではマイナスである。
実際に研究グループでは、HSP70を増やす天然物を検索し、「ヤバツイ」や「アルニカ」という植物の成分が安全にHSP70を増やすことを発見。これらを配合した化粧品はすでに再春館製薬所が商品化済みだという。一方、これまでHSPとシワに関してはまったく研究されておらず、今回初めて詳細な研究が行われ、成果が挙げられた形だ。
まずマウスの皮膚を42℃のお湯に5分間つけると、HSP70などのHSPが増えることが発見された。次に、42℃のお湯に5分間つけてHSPを増やした後に、紫外線を当てるという処理を10週間継続し、シワの形成を調査。
結果は、37℃のお湯に5分間つけた対照グループのマウスでははっきりとしたシワができたが、42℃で温熱処理をしてから紫外線を当てたグループではシワがほとんどできないというものだった。また、HSP70を常に生産している遺伝子改変マウスでも同様にシワの抑制が見られた。これらの結果は、HSP70が紫外線によるシワを防ぐことを示しているといえるだろう。
またこのメカニズムを検討したところ、HSP70がコラーゲンを分解するタンパク質を減らすことが確認された。なお、HSPには、コラーゲンの生産を助け、コラーゲンの質を高めるHSP47というタンパク質もある。研究グループでは、温熱によるシワの抑制には、HSP70だけでなく、HSP47も働いていると考え、現在研究を進めているところだ。
42℃というのは、ちょっと熱めのお風呂の温度だ。人間でも紫外線を浴びる前にお風呂に入ると、マウスと同様にシワを防ぐことができる可能性があり、今後の応用研究が期待されると、研究グループは述べている。