慶應義塾大学(慶応大)は6月28日、「テラヘルツ電磁波」の偏波情報を用いた超高感度な表面凹凸イメージング手法の開発に成功したと発表した。

成果は、慶應大大学院 理工学研究科修士1年の安松直弥氏及び同理工学部物理学科の渡邉紳一准教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国時間6月26日付けでアメリカ光学会のレター誌「Optics Letters」オンライン速報版に掲載された。

テラヘルツ電磁波は周波数1012Hzを中心にした、電波と光の境界に位置する電磁波のことだ。可視光領域の光とは周波数が異なり、可視光を透過しない半導体、プラスチック、衣類、紙などに一部透過する特性がある。

この特性を利用して、プラスチックパッケージ内部の電子集積回路(IC)の非破壊検査や衣服や封筒内部に隠された危険物の検査など、新しい非破壊・非接触センシング技術として広く産業界への応用が進められているところだ。

とりわけ、テラヘルツ電磁波を用いた非破壊表面凹凸形状計測は、各種工業製品の塗装膜下のキズやへこみ検査など、内部構造物の欠陥の早期発見につながるため注目を集めているが、その波長は0.1~1mm程度と著しく長いため、構造物の微細なへこみの深さを1μmの感度で観察することが難しく、産業応用に向けた1つの課題となっていた。

また、光の波長より細かい凹凸を観察する干渉計という手法では、装置系が複雑になるため、目に見えず取扱いの難しいテラヘルツ電磁波では装置に組み入れるのが困難であるという課題もあったのである。

今回の研究では、従来型のテラヘルツ波イメージング装置の検出器の部分を改良した「高精度テラヘルツ偏波イメージング装置」を凹凸計測に応用した(画像1)。

画像1。装置の説明図

凹凸のある試料表面に「楕円偏波」したテラヘルツ電磁波パルスを照射した場合、高さの違う2点から反射した電磁波の、ある決められた時刻における偏波方向はそれぞれ異なる。この違いを高精度に計測することで試料の高さ情報を抽出する仕組みだ。この手法により、最も感度が高い部分で±0.25μm(電磁波の中心波長600μmの1/1200)の深さ分解能を持つ超高感度凹凸イメージング装置が実現したのである。

同装置で取得したテラヘルツ凹凸イメージの例として、同大のロゴを彫刻したアルミニウム板の深さ形状を計測した結果が画像2と3だ。画像2のデジタルカメラによる写真には接触式厚み計で計測した深さ情報も記してある。

画像2(左)が、大学ロゴを彫刻したアルミニウム板のデジタルカメラ画像。画像3は、その超高感度テラヘルツ凹凸イメージ

2つの切削部分には1μmの深さの違いがあるが、これは右側のテラヘルツ凹凸イメージにおいて、灰色の濃さの違いとして明確に観測されている。このように本装置は1μm以下の深さ分解能を持つ。さらに曲率を持つ試料についても正しく凹凸形状を計測できることが画像4に示されている。

画像4。曲率を持つ試料を計測した結果

なお今後は非破壊・非接触テラヘルツ凹凸計測による工業検査やヒトの眼の角膜の曲率計測など産業・医療応用展開を目指し、装置の小型化と更なる高感度化を進めていく予定だという。