近傍銀河内のブラックホールで非常に珍しい爆発が発生したことが、NASAのチャンドラX線天文台(以下、チャンドラ)による観測で発見された。

これは、年老いた不安定な恒星ブラックホールの種類を解き明かす直接の証拠となる。ブラックホールは、百万個の太陽が放射するすべての波長のエネルギーと同様のエネルギーを、X線として生み出すことができる。今回の発見は、ブラックホールが持つその謎めいた性質に対して、新たな見解をもたらすものだ。

ブラックホールを含む「超大光度X線源」が発見された「渦巻銀河M83」(Credit: Left image - Optical: ESO/VLT; Close-up - X-ray: NASA/CXC/Curtin University/R.Soria et al., Optical: NASA/STScI/Middlebury College/F.Winkler et al.)

研究者たちは、チャンドラを使って新たな「超大光度X線源(ULX)」を発見した。これは、多くの「連星系」が発するX線よりも、さらに多くのX線を放つものだ。「連星系」とは、崩壊した星の残骸の周りを伴星が周回する系のことである。このような崩壊した星々は、中性子星と呼ばれる高密度の核やブラックホールを形成する。過剰なX線の放出は、「ULX」がこれまで我々の銀河系で発見されたブラックホールよりはるかに質量の大きいブラックホールを有することを示唆している。

「ULX」と比較される「大質量星」は、通常の場合、特定された時点では若いため、そのブラックホールも若いと考えられる。しかし、最新の研究結果から得られた直接的な証拠は、「超大光度X線源」に含まれるブラックホールはもっと古く、その一部は若いものと間違えられた可能性があると示している。

この興味深く新しい「超大光度X線源」は、地球から1500万光年彼方の「渦巻銀河M83」の中にあり、チャンドラによって2010年に発見されたものだ。天文学者らは、チャンドラで2000年と2001年に取得したデータとこのデータとを比較した。すると、「超大光度X線源」はX線の輝度が3,000倍以上になっており、M83の中で最高輝度のX線源となっていた。

このX線輝度の突然の増加は、常に活動を続けるこの種類の物体としても、今までで最も大幅な変化のひとつである。アインシュタイン衛星やXMMニュートンなどの衛星で撮像された過去のX線画像を見ても、これほどの「超大光度X線源」の兆候は見られない。

「X線輝度の急な増加に驚いた。しかしそれこそが、ブラックホールの成長過程について、我々が新たな発見をしたという確かな証拠だ」と、今回の研究チームのリーダー、ロベルト・ソリア氏(オーストラリア、カーティン大学)は話す。X線輝度の劇的な増加の原因は、ブラックホールに吸い込まれる物質の量が突然増えたためと考えられる。

2011年には、ジェミニ天文台とハッブル宇宙望遠鏡の可視光画像から、X線源の位置に明るい青色の可視光源が発見された。しかし2009年に撮像されたマゼラン望遠鏡の画像や、ハッブル宇宙望遠鏡の画像からは、件の光源は観測されていない。これは、ブラックホールの伴星の光が微弱で、より赤く、それまで超大光度X線源と直接結びつけられていた伴星よりも、ずっと質量が少ないことためだとされている。2011年に見られた明るい青色の可視光の放出は、伴星よりも大量の物質が、劇的なまでの勢いで蓄積されたことが原因だったに違いない。

「もし、X線の放出がピークだった2010年にだけ「超大光度X線源」が観測されていたなら、その系は1000万年から2000万年程度の若い大質量伴星を伴うブラックホールと、いとも簡単に間違えられていただろう」と、共著者であるジョンズ・ホプキンス大学のウィリアム・ブレア氏は話した。

渦巻銀河M83にあるブラックホールの伴星はおそらく赤色巨星で、年齢は少なくとも5億年、質量は太陽の4倍であると考えられる。星の進化をシミュレーションするための理論モデルでは、ブラックホールは伴星と同等の年齢であるべきだと示唆している。

これ以前には、年老いたブラックホールを持つ別の「超大光度X線源」がアンドロメダ銀河で発見され、天文学・天体物理学分野の論文誌「Astronomy and Astrophysics」の2012年2月号で発表された。より詳細な情報は、イギリスの王立天文学会が発行する「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」の2012年3月号で発表されている。これらの論文では、チャンドラ、XMMニュートン、ハッブルのデータが使用され、「超大光度X線源」は非常に変化しやすく、その伴星は年老いた赤色星であることを示している。

この2つの物を見てみると、「超大光度X線源」には、若くて常に成長し続けるブラックホールを持つものと、不規則に成長するブラックホールを持つものの2種類があることが分かってきている。「前後の比較が可能なちょうどよいタイミングで渦巻銀河M83を観測することができ、我々は非常に運がいい」と、M83に関する新しい論文の共著者である、ジョンズ・ホプキンス大学のキップ・カーツ氏は話した。

この研究結果は、5月10日発行の「The Astrophysical Journal」に掲載される予定となっている。