生理学研究所(生理研)は4月10日、免疫反応によって産生される過酸化水素(活性酸素の一種)によって、体温の温度センサである「TRPM2(トリップ・エムツー)」が体温で活性化するようになる仕組み、そしてTRPM2が体温を感じてマクロファージの働きを調節する仕組みを明らかにしたと発表した。

成果は、生理研岡崎統合バイオサイエンスセンターの加塩麻紀子研究員と富永真琴教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、4月9日付けで「米科学アカデミー紀要(PNAS)」電子版に掲載された。

白血球の1種であるマクロファージは、感染が起こった場所で真っ先に病原体や異物を食べるという、免疫機構において最前線の兵士の役割を担う。その際、マクロファージは殺菌のために活性酸素を産生するが、活性酸素の殺菌以外の働き、特に体温を感じる温度センサとの関わりは、これまで知られていなかった。そこで研究グループは、マクロファージが産生する過酸化水素と、TRPM2との関わりに注目したのである。

TRPM2は、活性化物質が存在しない状態では48℃付近の高い温度にしか反応しないため、通常の体温では活性化していない(画像1)。しかし、過酸化水素が産生されると、平熱域(37℃)でも活性化するようになることが、今回突きとめられた。つまり、過酸化水素がTRPM2の働きを調節する「スイッチ」として働くことが発見されたというわけだ。

画像1は、TRPM2を持った培養細胞の体温域の温度に対する反応。上の過酸化水素をかける前は反応が見られないが、下の過酸化水素をかけた後は赤い部分が増え、反応していることがわかる。これは過酸化水素によって、TRPM2が普段反応しない体温域の温度でも反応できるように温度反応性が変化したからであることが判明した。

画像1。過酸化水素によってTRPM2は、体温域でも反応するようになる

さらに、スイッチ・オンとなったTRPM2の働きによって、異物を食べるマクロファージの働きが、発熱域(38.5℃)で、より増強することも突きとめられたのである(画像2・3)。

画像2。過酸化水素がある時の、マクロファージの平熱域と発熱域の温度に対する反応。平熱域(約37℃)よりも発熱域(約38℃)でより強く反応する

画像3。過酸化水素がある時の、マクロファージの平熱域と発熱域の温度に対する反応。TRPM2をなくしたマクロファージでは、平熱域と発熱域で変化がない

今回の研究では、過酸化水素のTRPM2に対する作用は、TRPM2そのものに対する「酸化反応」によることも判明。また、具体的に過酸化水素がTRPM2のどこに作用しているのかも解明された。

富永教授は、TRPM2機能調節の分子機構が明らかとなったことにより、マクロファージの働きを調節する新たな薬剤開発や治療戦略を提供できる可能性が考えられるとコメント。また、ヒトなどは細菌などに感染した時には発熱をしばしば経験するが(画像4)、TRPM2の働きは発熱によって免疫力を上げるメカニズムの1つなのかも知れないとも述べている。

画像4。マクロファージの免疫反応が体温で活発になる仕組み