東京大学は4月3日、カナリア諸島にある国際ガンマ線望遠鏡の「MAGIC(Major Atmospheric Gamma Imaging Cherenkov)」を用いて、「かにパルサー」の回転に伴う超高エネルギーガンマ線パルスの放射を観測し(画像1)、パルサーからの放射としては従来の理論予測の50~100倍を超える超高エネルギーのガンマ線放射であることを発見したと発表した(画像2)。
成果は、東大宇宙線研究所の手嶋政廣教授、同齋藤浩二特任研究員、徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部の折戸玲子助教、東海大学理学部物理学科の櫛田淳子講師、マックスプランク物理学研究所の齋藤隆之研究員、同高見一研究員らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、3月30日付けで「Astronomy & Astrophysics」に掲載された。
かにパルサーは1秒間に30回の速さで回転する、強い磁場(1億テスラ、地球磁場の1兆倍以上)を持つ中性子星だ。かにパルサーは地球から6000光年離れた、牡牛座の「かに星雲」の中心にあり、この星雲にエネルギーを供給している。かにパルサーもかに星雲も、共に西暦1054年に起きた超新星爆発の後に残された残骸だ。
かにパルサーのような中性子星は非常に高密度な星で、その直径はわずか20kmほどで、太陽の7万分1の大きさしかない。それにも関わらず、太陽と同程度の質量を持っている。
現在まで、太陽系のある天の川銀河内で約2000のパルサーが電波望遠鏡などにより見つかっており、これらパルサー天体の自転周期は極めて規則的で、その周期は1ミリ秒から10秒程度だ。
回転中、パルサーは主に電子、陽電子からなる荷電粒子を放出する。これらの粒子は中性子星と同じ速度で回転する磁力線に沿って移動し、光子ビームを放射。その結果として、地球に対してビームが視線方向を向いた時に、まるで遠くから灯台を見る時のようにそのパルサーが明るく見えるというわけだ。
MAGIC国際研究グループは2008年にかにパルサーからの25GeVのガンマ線放射を検出したことを米科学誌「Science」に発表した。この発見により、中性子星の表面から遠く(60km以上)離れた位置で放射が起きているとの驚くべき結論が導き出されたのである。
高エネルギーのガンマ線は天体の磁場により非常に効率よく遮断されることから、もし中性子星近くで放射が起きている場合、そのような高エネルギー領域での放射は検出されないはず、というのが理由だ。
なおMAGIC望遠鏡(画像3)は、カナリア諸島ラパルマのロケ・ムチャチョスの頂上にあるヨーロッパ北天文台に設置されており、世界最大クラスの17m鏡面を持つ、2台のガンマ線望遠鏡システムだ。日本、ドイツ、イタリア、スペイン、スイス、ポーランド、フィンランド、ブルガリア、クロアチアの約160人の研究者を含む国際共同研究により建設、運用されている。
ちなみに、MAGIC望遠鏡はガンマ線を直接観測しているわけではなく、宇宙からのガンマ線が地球の大気に突入した際に、2次粒子の電子なだれが引き起こされた時に発生する「チェレンコフ光」(青い光のフラッシュ)を観測している。
しかし今回のMAGIC望遠鏡による観測では、さらに驚くべき結果も明らかになった。2年間をかけて合計73時間の観測が行われ、そこで発見されたのが、予想をはるかに超える400GeVという高いエネルギーに達する超高エネルギーガンマ線パルス放射だったのである。
また、パルス幅がおよそ1000分の1秒と極めて短いことも判明。この発見は、今までのパルサーからの放射の理解に対して、大きな疑問を投げかけるものとなった。
この疑問に答えるため、「相互作用により生成された二次粒子がパルサーの磁場による遮蔽を乗り越える」とするモデル、また別の可能性として、「かに星雲にエネルギーを供給しているパルサー風(パルサーから放出されるほぼ光速に近い電子と陽電子の流れ)の中においてもパルサー放射が起こっている」とするモデル(英科学誌「Nature」に掲載された関連論文)が提案されている。しかし、どちらのモデルも今回観測された極めて高いエネルギーで、かつ時間幅の狭いパルス放射について、十分な説明を与えていないのが現状だ。
今後、さらなる観測を行ってより高精度の観測データを得ることで、パルサー放射機構の謎が解かれることが期待されると、研究グループではコメントしている。