東北大学は4月2日、アミロイドをPET(Positron Emission Tomography:陽電子(ポジトロン)放射断層撮像法)画像化する「BF-227」PETプローブ(分子プローブ、PETトレーサー)を用いて、アミロイドの1種である「トランスサイレチン」が沈着する疾患群「全身性アミロイドーシス」の患者の心筋での集積の画像化に成功したと発表した(なお東北大加齢医学研究所の公式Webサイト上では、今回の情報は2月15日付けで発表済み)。

成果は、東北大加齢医学研究所老年医学分野の古川勝敏准教授、荒井啓行教授、東北大未来医工学治療開発センターの工藤幸司教授、信州大学の池田修一教授らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米「Circulation」に掲載された。

アミロイドーシスは、毒性を持った物質であるアミロイドが身体の各組織に沈着して病気を起こすものだ。認知症の代表疾患であるアルツハイマー病も「アミロイドβタンパク質」というアミロイドの1種が、脳に沈着して「老人斑」を形成するために起きてしまう病気である。

研究グループは、アミロイドを画像化するPETプローブの開発を進めてきており「BF-227」プローブによるアルツハイマー病脳老人斑のPETでの画像化に成功した実績を持つ(2011年発表)。その後もプリオン病、多系統萎縮症などの神経疾患での研究を進めてきた形だ。

PETプローブとは、受容体やトランスポーター、酵素などの標的部位となるタンパク質に特異的に結合する化合物をポジトロン核種(主に11C(炭素)または18F(フッ素))で標識したもので、これを静脈注射することにより、対象となる生体内タンパク質の分布を可視化できるというものである。

今回の研究は、心臓、消化管、末梢神経にトランスサイレチンが沈着する全身性アミロイドーシスの患者の腸管と心臓に焦点を当てて行われた。まず、すでに手術摘出されていた患者の腸管の生検標本をBF-227で染色して蛍光顕微鏡で見ると、粘膜下にアミロイドが沈着していることが明らかにとらえられた(画像1)。

さらにこの患者を11CでラベルしたBF-227を用いてPET撮像をすると、患者の心筋に明らかな集積像が認められたのである(画像2)。この結果は重合しβシート構造を取ったトランスサイレチンを生きた心筋で初めてPET画像化したものだ。

画像1。左の列が通常の腸管細胞で、右の列が全身性アミロイドーシス患者から手術で摘出した腸管をBF-227プローブで染色して得た顕微鏡画像。下段は蛍光顕微鏡画像で、Dは粘膜下にトランスサイレチンの沈着が見て取れる

画像2。BF-227を用いてPET撮像をした患者の心筋。左の列が通常の心筋で、右が患者の心筋。Dにおいては、かなりの集積が見られる

これまでアミロイドーシスの確定診断は病変部位の生検に頼っており、侵襲が高く容易にできるものではなかった。しかし、今回のPET画像化の成功は生検に比べはるかに低侵襲であり、かつ病気の早期発見にも活用できるので非常に臨床的意義が大きいと、研究グループはコメントしている。

今後は、このPETプローブをさまざまなアミロイドーシスの診断に応用し、さらなる診断レベルの向上に努めていくとした。