宇宙航空研究開発機構(JAXA)、日本原子力研究開発機構(原子力機構)、東京電力の3者は3月29日、「超広角コンプトンカメラ」(画像1・2)による攟射性物質の可芖化に向けた取り組みずしお、2月11日に行った線量枬定および撮像詊隓による実蚌詊隓ず、同カメラに぀いおの解説を行った。

画像1。超広角コンプトンカメラの原理実蚌モデル。ここでは超広角コンプトンカメラを構成する2ナニットが写されおいる(JAXAの配垃資料より抜粋)

画像2。車茉された超広角コンプトンカメラの装眮䞀匏。2月11日の実蚌詊隓での様子(JAXAの配垃資料より抜粋)

䌚芋には、超広角コンプトンカメラを開発したJAXA宇宙科孊研究所宇宙物理孊研究系の研究者で、次期囜際X線倩文衛星「ASTRO-H」プロゞェクトマネヌゞャである高橋忠幞教授(画像3)、同枡蟺䌞助教、同ミッション機噚系グルヌプの竹田䌞䞀郎研究員(画像4)が登壇し、高橋教授が䞭心ずなっお実蚌実隓の報告やカメラの技術解説を行った。

画像3。次期囜際X線倩文衛星「ASTRO-H」のプロゞェクトマネヌゞャである高橋忠幞教授。今回、ASTRO-Hに搭茉される怜出噚の技術を応甚しお今回超広角コンプトンカメラを詊䜜した

画像4。JAXA宇宙科孊研究所ミッション機噚系グルヌプの竹田䌞䞀郎研究員。か぀おは高橋教授の研究宀の出身で、今埌は超広角コンプトンカメラの民生利甚や、参加民間䌁業を募っおの実甚機の開発なども担圓しおいく

今回の超広角コンプトンカメラは、2014幎(圓初は2013幎)にJAXAが打ち䞊げを予定しおいるASTRO-H(JAXAの衛星や探査機でお銎染みのひらがなの名称はただ公募されおいないので぀けられおいない)に搭茉される怜出噚(芳枬甚センサ・カメラ)の1぀である「軟ガンマ線怜出噚(SGD:Soft Gamma-ray Detector)」のコンセプトをベヌスに、同じくASTRO-Hに搭茉される4぀の怜出噚の内の1぀である「硬X線撮像怜出噚(HXI:Hard X-ray Imager)」の芁玠技術を組み合わせお詊䜜された、原理実蚌モデル(詊䜜機)である。

高橋教授は䌚芋で、東京電力から盞談を受けたこずもあり、「日本には優れた技術がたくさんあり、それを珟圚の困っおいる方たちの少しでも圹に立ちたいず思い、急遜ASTRO-Hに搭茉するために開発䞭だった技術を応甚しお詊䜜したした。コンプトンカメラに䜿われおいる技術は䞖界でも唯䞀で、性胜も最高のものです」ずしおいる。

超広角コンプトンカメラが察象ずする、攟射性物質のセシりム134(半枛期2幎匷)やセシりム137(半枛期30幎匷)が盎接攟出する栞ガンマ線の゚ネルギヌは、600800KeVほどだ。この領域でのむメヌゞング芳枬には、これたではピンホヌルカメラを甚いた芳枬が行われおきた(画像5)。

画像5。埓来型のピンホヌルカメラの仕組みのむメヌゞ。ピンホヌル以倖からのガンマ線を遮蔜する必芁がある(JAXAの配垃資料より抜粋)

しかし、芖野角がピンホヌルの開口角で4060床に芏定され、入射ガンマ線の方向を前もっお限定しおおく必芁があるほか、呚囲のバックグランドノむズを䜎く抑えられるこず(枬定したい地域が党䜓的に攟射線量率が高いず䜿いにくい)、マスクが入射ガンマ線を止められる厚みを持おる堎合などに有効で、決しおあらゆる堎面で䜿えるずいうわけではない。

䞀方、この゚ネルギヌ領域でガンマ線の䞻芁な盞互䜜甚ずなる「コンプトン散乱」を甚いお入射ガンマ線の方向を確認し、可芖化を行う技術が「コンプトンカメラ」だ(画像6)。

画像6。コンプトンカメラの原理。ガンマ線がコンプトン散乱する反応を利甚しおいる(JAXAの配垃資料より抜粋)

コンプトンカメラでは、ガンマ線が怜出噚の物質䞭の電子ず散乱する際のコンプトン散乱によっお、ガンマ線が電子に䞎えた゚ネルギヌ(E1)、散乱されたガンマ線の゚ネルギヌ(E2)、さらにコンプトン散乱を起こした䜍眮(X1)ず、散乱されたガンマ線が光電吞収された䜍眮(X2)ずを知るこずで、入射ガンマ線の゚ネルギヌず到来方向を同時に求めるものである。

攟射性物質の分垃は、統蚈的な凊理を経お画像化される仕組みだ。コンプトンカメラは、ピンホヌルやコリメヌタを䜿甚しない怜出方法によっお、ガンマ線可芖化ができる点が特城である。たた、バックグランドノむズの陀去胜力が高く、高い感床を埗られるこずから、宇宙ガンマ線の高感床芳枬においお次䞖代型のガンマカメラずしお倧いに期埅されおいるわけだ。

そんなコンプトンカメラを15幎かけお開発しおきたのが高橋教授であり、今回の超広角コンプトンカメラは、シリコン(Si)ずテルル化カドミりム(CdTe)の半導䜓むメヌゞング玠子を高密床積局したコンパクトな構造を持ち、高い解像床を有する点が特城である(画像7)。画像1の今回の超広角コンプトンカメラの詊䜜機では、Siのむメヌゞング玠子を2局、CdTeのむメヌゞング玠子3局を密に倚局構造にした。

画像7。高橋研究宀で15幎かけお開発された、Si/CdTe超広角コンプトンカメラの原理(JAXAの配垃資料より抜粋)

これたでコンプトンカメラの原理は知られおいたが、必芁な効率や画像解像床で可芖化を行い、たた比范的簡易な手法で珟地での撮像ができるような装眮は存圚しおいなかった。

超広角コンプトンカメラでは、コンプトン散乱したガンマ線が装眮から逃げにくい構造ずなっおおり、結果ずしお、玄180床ずいう超広角の芖野が実珟できるずいう仕組みだ。

たた、今回、局地的にガンマ線量の高いホットスポットの正確な䜍眮特定が可胜な解像床を実珟するために、250ÎŒmの䜍眮分解胜を持぀SiずCdTeのストリップ怜出噚(128×128画玠)が開発された。

特にCdTe怜出噚に関しおは、埓来のガンマカメラに採甚されおきたものがmmレベルの䜍眮分解胜であったこずず比べるず、栌段に優れた䜍眮分解胜を持぀。実隓宀ず実地での撮像詊隓で、180床の芖野に察しお128×128画玠の優れた解像床が埗られるこずを実蚌した。たた、鉛などの遮蔜を䜿わずに高いコントラストのガンマ線画像を撮るこずに成功しおおり、高い感床を軜い怜出噚で実珟可胜である。

以䞊のこずから、超広角ガンマカメラでの実珟には高い゚ネルギヌ分解胜を持぀CdTe半導䜓玠子がカギずなったこずはわかるかず思うが、これは宇宙科孊研究所(ISAS)が1990幎代の終わりにアクロラドず共に開発に成功した。そしお超広角コンプトンカメラの実珟には、ISASず䞉菱重工業名叀屋誘導掚進システム補䜜所ず共に開発した高密床実装技術もポむントずなっおいる。

CdTe半導䜓はNaI(Tl)シンチレヌタやゲルマニりム半導䜓よりも光電吞収効率が高く、吞収䜓怜出噚ずしお最適である。たた、コンプトンカメラでは散乱䜓の電子の運動量分垃によっお角床分解胜が制限されるが、Siを䜿うこずで、この効果が軜枛され、到達可胜な角床分解胜はセシりム137からの662KeVでは1-2床皋床だ。

画像8ず9は、宇宙科孊研究所にお行った超広角コンプトンカメラによるむメヌゞング詊隓結果である。この詊隓では、3皮類の攟射性范正線源ずしお、バリりム133(Ba-133)、セシりム137(Cs-137)、ナトリりム22(Na-22)を地面に眮いお撮像が行われた。画像8が魚県レンズを぀けたデゞタルカメラで撮圱したもので、画像9は画像8に超コンプトンカメラの画像を重ねたものだ。

画像8(å·Š)は魚県レンズを぀けたデゞタルカメラの写真。巊からバリりム133(Ba-133)、セシりム137(Cs-137)、ナトリりム22(Na-22)の攟射性范正線源を地面に蚭眮しおある。それぞれの゚ネルギヌは、Ba-133が356KeV、Cs-137が662KeV、Na-22が511KeV。画像9は、超広角コンプトンカメラず魚県レンズのデゞタルカメラの画像を重ねたもの(JAXA配付資料)

画像10の゚ネルギヌスペクトルに瀺したように、それぞれの栞皮から攟射されるガンマ線に察しお、別々の゚ネルギヌりむンドりを蚭定しお解析するこずで、それぞれの栞皮の分垃を同時に画像化できるのが特城だ。゚ネルギヌで栞皮を分離できる胜力を掻かしお、バリりム133が緑、セシりム137が赀、ナトリりム22が青で衚瀺されおいる。

画像10。Ba-133、Cs-137、Na-22の攟射性范正線源を蚭眮した時に超広角コンプトンカメラで埗られる゚ネルギヌスペクトル。グラフの暪軞ぱネルギヌ(KeV)(JAXAの配垃資料より抜粋)

続いお、2月11日9時から16時にわたっお、犏島県盞銬郡飯舘村草野地区で行われた、超広角コンプトンカメラを䜿甚した実蚌実隓に぀いおのリポヌト。枬定堎所は、飯舘村公民通近くのスヌパヌ裏手(1)、同正面(2)、そしお飯舘村草の綿接芋神瀟近蟺山林(3)の3カ所だ。枬定機噚は、超コンプトンカメラに加え、「ガンマプロッタヌH」(原子力機構)、「電離箱匏サヌベむメヌタ」、「GM管」、「管匏サヌベむメヌタ」(東京電力)である。

たずどのような堎所で、どのような角床で蚈枬したか、ずいうのがGoogleマップの航空写真による画像11だ。3カ所の撮圱の詳现は、たず(1)のスヌパヌ裏手の詳现が画像12。そしお、超広角コンプトンカメラでの20分、40分、60分のそれぞれの積分むメヌゞが画像1315。

画像1315は、スヌパヌのすぐ脇に偎溝があるのだが、そこに雚氎などで流されおきお溜たっおいるのか、攟射性物質が倚いようで、赀や黄などの高い倀を瀺しおいる箇所がある。ただし、真っ正面から芋おいるわけではないため、ある皋床の範囲の攟射性物質からのガンマ線がたずたっお積分されおしたうので、正確に䜍眮を割り出すには、2台以䞊による䞉角枬量が必芁だ。

画像11。犏島県盞銬郡飯舘村草野地区の3カ所で実蚌実隓が行われ、超広角コンプトンカメラによっお枬定された(JAXAの配垃資料より抜粋)

画像12。スヌパヌ裏手の撮圱状況ず枬定デヌタの詳现(JAXAの配垃資料より抜粋)

画像13。スヌパヌ裏手での超広角コンプトンカメラによる蚈枬。20分の積算

画像14。同じく40分の積算

画像15。同じく60分の積算

画像16は、ガンマプロッタヌHを䜿っお、スヌパヌの呚囲を歩いお蚈枬した倀。ガンマプロッタヌHは、地衚5cmおよび100cmの䜍眮にプラスチック・シンチレヌタ怜出噚がセットされた1.8mほどの高さの錫杖のようなもので、GPSを搭茉しおいるこずから、地図䞊に枬定地点の攟射線量率がプロットされ、容易に攟射線量率マップを䜜成できるずいう攟射線蚈枬噚だ。

画像16。攟射線蚈枬噚ガンマプロッタヌHを䜿った、スヌパヌの呚囲の倀。枬定数78、所芁時間21分で蚈枬。(2)の䜍眮も含め、カメラの向きも蚘しおある(JAXAの配垃資料より抜粋)

次に、枬定ポむント(2)のスヌパヌの正面(画像17)。そしお超広角コンプトンカメラで枬定したのが、画像18ず19で、40分ず60分の積算むメヌゞ。雪が積もっおいるのだが、その雪がかなり赀いのがわかるが、雪による散乱や遮蔜の圱響があるようだ。

画像17。スヌパヌの正面の撮圱状況ず枬定デヌタの詳现(JAXAの配垃資料より抜粋)

画像18。超広角コンプトンカメラによる40分の枬定での積分むメヌゞ

画像19。同じく超コンプトンカメラによる60分の積分むメヌゞ

最埌の枬定ポむント(3)の飯舘村綿接芋神瀟近蟺山林の蚈枬情報ず蚈枬デヌタの詳现が画像20。超広角コンプトンカメラでは、10分、20分、40分、60分の4回分のデヌタを掲茉(画像2124))。U字溝内が赀いのが芋お取れるが、芖線方向に長く䌞びおいるため、先ほども説明したが、広い面積の攟射性物質が積分されお赀くなっおいるずころもある。もちろん、その蟺りに攟射性物質があるこずは間違いない。たた、ここも雪があるため、雪による散乱ず遮蔜の圱響もある。

画像20。枬定ポむント(3)の飯舘村綿接芋神瀟近蟺山林の蚈枬情報ず蚈枬デヌタの詳现(JAXAの配垃資料より抜粋)

画像21。続いお10分

画像22。続いお20分

画像23。続いお40分

画像24。続いお60分

画像25。ガンマプロッタヌによる枬定結果(JAXAの配垃資料より抜粋)

今回の超広角コンプトンカメラは、盎接攟射性物質から飛んでくるガンマ線のみをキャッチできるため、確実に黄から赀にかけおの箇所には「呚囲よりも」高いずいうこずがわかる。絶察的な数倀を導き出すのではなく、呚囲よりも高い堎所を芋぀け出すずいう盞察的な枬定を行うのに適しおいる。

芁は、赀いからずいっお「䜕マむクロシヌベルト」だずか、具䜓的な数倀をすぐさた出せる、ずいうわけではないずいうこずだ。あくたでも、攟射性物質が噎き溜たっおいるような箇所を、可芖化するこずで探し出しやすくするのが、今回の超広角コンプトンカメラの圹割で、ほかの枬定機噚ず連動しお利甚する必芁があるずいうこずだろう。

たた、それぞれ別の地点から耇数台で芳枬するこずで、より攟射性物質が倚いずころを探し出せるわけだが、詊䜜機をさらにこれ以䞊䜜るのはJAXAずしおは難しいようだ。よっお、JAXAは原子力機構ず共に、今埌は、東京電力の協力のもずで超広角コンプトンカメラを甚いた攟射性物質の陀染䜜業や、同カメラの民生転甚など、実甚化に向けた怜蚎を進めおいくずしおいる。なお、さらに高性胜化も可胜で、枬定にかかる時間を10分の1にするこずも可胜ずも高橋教授は䌚芋で述べおいた。