東京工業大学(東工大)大学院理工学研究科 博士1年の菅井直人氏、同修士2年の平郡寛之氏、山本拓矢 助教、手塚育志 教授らの研究グループは、合成高分子のプログラムされた折りたたみによる多環多重縮合構造の構築に成功したことを発表した。同成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
DNAやタンパク質に代表される生体高分子に見られる、長いひも状高分子のプログラムされた折りたたみによる高次構造形成は、生命活動の重要な役割を担うことから注目を集めてきた。しかしこのようなプログラムされた折りたたみを合成高分子により再現することは、高分子の特定の位置に特定の官能基を自在に組み込む技術が必要とされることからこれまで実現することができなかった。
今回、研究グループは、合成高分子によるプログラムされた折りたたみ構造の構築を目的として、高分子間クリック反応により合成した多環状高分子を、高分子内クリップ反応により折りたたむ選択的な合成経路を発案した。
まず、ESA-CF法を用いてクリックケミストリ、オレフィンメタセシスに必要な官能基を有する単環状高分子を合成。続いて、単環状高分子と直鎖状高分子、または単環状高分子同士を、銅触媒を利用したクリックケミストリにより2カ所にオレフィンを有する二環パドル型および三環スピロ型高分子を合成した。
このようにして得られた高分子を、ルテニウム触媒存在下、希釈条件で分子内オレフィンメタセシスを行い、γ-graph型、unfolded tetrahedron型と呼ばれる構造の選択的構築に成功。反応の進行と合成の確認は、化学構造(1H NMR)、分子量(SEC)、末端官能基(IR)および絶対分子量(MALDI-TOF MS)の測定により行ったという。
これにより、ESA-CF法、クリックケミストリおよびオレフィンメタセシスを組み合わせることでタンパク質を折りたたんだような多環縮合型構造の選択的構築が可能となることが示された。同手法はより複雑な構造の構築にも有効であり、複数セグメントから成るブロック共重合体にも応用可能なため、研究グループでは、今回の成果を応用することで、「かたち」に基づいた新物性の創出による新奇機能性高分子材料の開発につながることが期待できると説明している。