国立天文台、日本スペースガード協会を中心とする研究チームは12月6日、オリオン大星雲内にある「クラインマン・ロー星雲」(KL星雲)を温かく照らす真のエネルギー源の位置を突き止めたと発表した。すばる望遠鏡による中間赤外線観測による発見で、日本天文学会欧文研究報告誌「Publ.Astron.Soc.Japan」第63巻第4号に掲載された。
KL星雲はオリオン大星雲(M42)の中心付近にある有名な赤外線星雲だ。地球からは1500光年の距離にある。中心には、太陽の約30倍の質量を持つ原子星である赤外線天体「IRc2」が存在し、KL星雲のエネルギーを担っていると、これまでは考えられてきた。
一方、IRc2とほぼ同じ位置に重い星が生まれていることを示す電波源「I」も発見され、当初はIRc2と同一の天体と見られていたが、その後の詳細な観測により、両者は微妙に位置がずれていることから、別物であることが判明したのである。
電波観測の結果は、IRc2ではなく電波源Iこそが真の原子星であることを示していたが、赤外線でそのことを証明できるデータがこれまではなかった。赤外線で明るく光っているのはあくまでもIRc2であり、電波源Iが存在するはずの場所には、どんな波長の赤外線でもそれに対応する天体が見えていなかったのである。
今回、研究チームはすばる望遠鏡に搭載された中間赤外線撮像分光装置「COMICS」により、中間赤外線の複数の波長でKL星雲の詳細な画像を取得した(画像1)。しかし、それら中間赤外線画像でも、個々の波長の画像では電波源Iに対応する天体を検出できなかったのである。
そこで、異なる波長で撮影した画像同士を組み合わせて、KL星雲内部の温度分布を調査。すると、IRc2の位置には温度のピークがなく、一方で電波源Iの位置にピークがあることが発見されたのである(画像2左)。温度が最も高い場所、すなわち電波源Iの位置に原子星があることが、こうして確認されたというわけだ。また、この結果から電波源Iにある原子星から、IRc2に向けてエネルギーの流れがあることも示されたというわけである。
逆にその正体がわからなくなったのが、IRc2である。その謎を解くため、研究チームはKL星雲の減光量の分布を調査した(画像2右)。減光量とは、光(赤外線)を出している「光源」と観測者との間に、光を遮るような星間物質(チリ)がどれだけあるかを示す量だ。減光量が小さければ、奥まで観測することができるが、減光量の大きい場所では霧がかかった時のように奥まで見通せなくなる。
研究チームは、すばる望遠鏡での中間赤外線観測で得られた減光量分布から、IRc2付近では減光量の最も大きい場所が近~中間赤外線で最も明るい場所に一致することを突き止めた。これは、IRc2の位置に光源となる星が仮にあったとしても、私たちはそこから来る赤外線を見ることができないはずであることを意味する。
つまり、IRc2として見えている赤外線はその内部にある星からの光ではなく、近くにある他の明るい光源からの光を星間物質が反射しているのを見ているというわけだ。そして電波源Iの位置にいる原子星こそ、IRc2を明るく照らす光源に間違いないと推測されたのである。
以上の結果から、研究チームは、KL星雲のエネルギー源となる原子星はIRc2ではなく電波源Iにあること、IRc2は電波源Iにある原子星の光を散乱して近赤外線~中間赤外線で光っていること、という新たな知見を得ることに成功した。
なお、KL星雲をめぐっては、「フィンガー」構造と呼ばれる放射状の不思議な構造の起源や電波源Iにあると考えられる埋もれた原子星の生い立ちなど、まだまだ謎が多く残されている。今回の結果はそれらの謎を解明するためのヒントになる可能性もあるとしている。