ヒトも物質も、分子でできており、その分子も原子の組み合わせで構成され、その原子も…とドンドン細かく分解していくと最後はどこに行き当たるのか。言葉通り、「それ以上分割できない粒子」のことを素粒子と呼びます。

例えば脆い石を壁に投げつけると粉々になります。その中の1つの粒をさらに拾い、その大きさに見合った小人がまた壁にぶつけるとやはり粉々になり、さらに小さな小人がまた壁にぶつける…この分割作業を繰り返していくと、逆にやがて硬い粒が出てきます。この粒はどんなに力自慢の小人が壁にぶつけても割れません。この粒を素粒子と言います。素粒子ほど硬くないものは単に粒子と呼びますが、石ぐらいの脆さだと、粒子とも言いません。

二酸化炭素の化学式はCO2で、炭素(C)が1つと酸素(O)が2つから構成されていることを表しています。Cは人体にもたくさん含まれている粒子で、体重70kgの人の場合16kgくらいの炭素があると言われています。16kgの炭素というと、粒子の数にすると1兆の1兆倍以上となるので、もしヒトを、素粒子レベルまで粉々にしようと思ったら、膨大な回数、小人の投手を登板させないと達成できないのです。

さて、素粒子はそれくらい小さいものなので想像がしにくいかもしれないが、実はいくつか種類があります。CやOでもヒトからすれば十分小さいですが、それでも違う名前がつけられているのはそれぞれに個性(役割や特徴)が違うためです。H2Oをたくさん集めると水として、CO2をたくさん集めると二酸化炭素として人間の生活に関わってきます。この2つは水素(H)とCが違うだけなのに、見た目や性質はまったく異なります。素粒子も同じで、個性が違うものがいくつもあります。

素粒子は大きく分けると2種類のみ!

一番身近な素粒子は「電子」と「光子」、そして最近、光よりも早いかもしれない、と話題になっている「ニュートリノ」があげられます。電子とニュートリノは「フェルミ粒子」と呼ばれる仲間で、光子はウィークボソンなどとともに「ボーズ粒子」と呼ばれる仲間です。

ヒトの身近に存在する"モノ"はだいたいフェルミの仲間と思ってよく、見えない力を伝えるのがボーズの仲間と思ってよいです。例えばレントゲンに使われるX線やセンサに使う赤外線など、すべての電磁波は光子で、可視光も光子です。これらは、どう見てもモノっぽくはないですね。電子もモノっぽくないかもしれませんが、電子機器はもちろん、ヒトの体の中にも電子はたくさんありますから、れっきとしたモノであると言えます。

ニュートリノはちょっと変わっていて、モノっぽくないけど、電子の仲間という変わり種の存在です。なぜ、電子の仲間に分類されるかを解説しようと思うと、それだけで話ができてしまうので省略しますが、1つ言えることは、「ニュートリノは力を伝えない」ということです。

"力"、それはメッセージの解釈

我々が平和に地球上で暮らせているのは、HやOといった粒子がさまざまな効果を発揮するほか、さまざまな"力"が存在するおかげです。

例えば、地球と人体の間には万有引力が働いています。これは超常現象でもなんでもなく、ちゃんと「重力子」という素粒子が力を伝えているために発生します。敢えて例えるならばボーズ粒子は「手紙」で、地球とヒトの体は、「私、こういった者なのですが、ご都合よろしければ引き合いましょう」という手紙を絶えず交換し続けている間柄ということになる・

手紙といっても、ビジネスレターから時節のあいさつ、ラブレターまで、いろいろ幅広いですが、素粒子のように小さいと手紙の内容は4種類に絞られます。その4種類の手紙はそれぞれ「重力」「電磁気力」「核力」「弱い力」という4つの力に対応しています。

それぞれに対応した手紙の内容は、簡単に表すと重力が「重力で引き合いましょう」、電磁気力が「電気の力で引き合う、もしくは遠ざかりましょう」、核力が「電気のことは気にせずにくっつきましょう」、弱い力が「くっついているところ悪いんだけど、別れよう」というものになります。単純な内容で、味気ないつまらない話に思えますが、素粒子も大きなモノも、手紙の内容を読まずにいると大変なことになるのは身に覚えがある人も居るでしょう。

極端な話、重力(万有引力)が存在しなければヒトもモノも宇宙空間に放り出されることになります。また、前述のように、ヒトの体には無数のCが含まれてますが、それは大雑把にいうと、陽子が6個集まったものです*

陽子が集まっている近辺には中性子という粒子があり、この集まりを原子核という。この集まりから(粒子的に)かなり離れた位置に6個の電子が飛んでおり、この原子核と電子の距離がすなわち、炭素原子の大きさを表す

陽子はプラスの電気を持っているので、一般的な常識からすればプラス同士が近づけば反発してバラバラになろうとしますが、CはCとして存在し続けます。

磁石のSとS(もしくはNとN)を近づけても反発してずれてしまうのと似ている

これは、陽子と陽子の間に"核力"、つまり一種の引力が働いているためです。この核力の手紙に書かれた「電気のことは気にせずくっつきましょう」という内容は「グルーオン」と呼ばれます。

粒子によって、興味を示す対象(手紙)が違う

粒子はその種類により、力の感じ方が変わってきます。例えば仮定の話ですが、バスケットボールくんは地球さんが大好きですが、電気は嫌いなので電子さんから「光子」と書かれた手紙 (光子メール。以降、めんどうなので、電磁気力を電気メール、重力子を重力メール、グルーオンを核メール、ウィークボソンを別れメールとしましょう)が送られてきても読みません。しかし、大好きな地球さんから届く「重力子(重力メール)」という手紙は喜んで読み、その結果、そこに書かれている「電気の力で引き合いましょう」ということに興味を示し、お互いに引き合います。

一方、電子さんは電子さんで地球さんとは好きでも嫌いでもない関係なので、地球さんからの重力メールは、目を通し、「重力で引き合いましょう」と書かれていれば、一応読むには読みますが、それよりも大親友である陽子さんに「電気の力で引き合いましょう」と書かれた手紙をもらうと、そっちのほうが興味があるのでそちらに目が行き陽子さんと引き合うために喜んで動き出します。

独立独歩で我が道を行く"ニュートリノ"

ではニュートリノはどうでしょう。ニュートリノは非常に軽いフェルミ粒子で、電気メールも核メールも興味を示さず読みません。重力メールもたまに興味を示しますが、ほぼ読みません。こうした手紙を読まないということは、送っても返事をくれる相手がいないので、書かないということでもあります。ニュートリノが人体に向かって飛んできても、(人体を構成する無数の粒子は)誰もニュートリノに止まれという手紙を出さない(出しても読まれない)し、ニュートリノもニュートリノで人体(を構成する無数の粒子たち)に対して、動け、という手紙を出すこともありません。それ故に、人体をそのまま突き抜け、何らかの影響を及ぼすことがない無害な存在となっています。

え、中性子爆弾ってあるじゃないか、という人も居ると思いますが、これは中性子が電気メールを読まずに核メールを読むという性質を利用したもので、中性子が人体に入ると「中性子放射化」という現象が生じるために人体に影響が出てきます。

自分に興味をまったく示さないものが、たまたま自分の目のはしに映って、気になってきて逆に興味を持ってしまうというのが人間です。小柴昌俊氏がノーベル賞を受賞した理由は「天体物理学、特に宇宙ニュートリノの検出へのパイオニア的貢献」とされていますが、この検出とは、筆不精のニュートリノと手紙のやりとりをすることに他ならず、その手紙をやり取りするための装置が「カミオカンデ」であり、「スーパーカミオカンデ」です。

ただし、カミオカンデで送ったこちらからの手紙の返答を残念ながらニュートリノから直接もらうことはない。ニュートリノと水分子の衝突が「チェレンコフ光」と呼ばれる電気メールを誘発し、検出装置はそれを受け取って反応を示すためだ

2011年9月23日、ニュートリノをジュネーブのCERNから約730km離れたグラン・サッソのイタリア国立物理学研究所研究施設に飛ばしたところ、 2.43ms後に到着し、光速より速いことが計測されました。ただし、この計測結果に対し、多くの人はニュートリノそのものに対する興味としてではなく、相対性理論に対する興味として話題にしています。

ニュートリノが光より早いかどうかと、相対性理論を直接つなげて話をすることは、追証の結果が出てからになるでしょう。その追証も、そんな数週間で出てくるわけがありません。1-2年は猶予を見る必要があるでしょう(2010年6月に小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った小惑星イトカワの微粒子の研究も、ようやく基礎的な部分の1部が成果として出てきただけで、これから世界各地で本格的な研究が開始されることを考えれば、その成果がどの程度後から出てくるか想像できるでしょうか)。

こうした世界的な科学に関するニュースが出た時は、その事象に対するアンテナだけは張っておくことに損はありませんが、焦ってもすぐにさらに細かな情報が出てくることは残念ながらありません。次の情報が出るまで、ヤキモキして待つのも良いですが、自分の興味のある分野の研究や科学技術の動性など、そうした話題が出る前から追いかけてきたものをもう一度見直してみると、また、新しい発見や考察が出てくるかもしれません。