環境省、国立環境研究所(NIES)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で構成される研究チームは、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による地上観測データを用いて、全球の月別・地域別の二酸化炭素(CO2)吸収排出量(正味収支)の推定および推定結果の不確実性(推定誤差)の算出を行ったことを発表した。同成果は10月29日発行の日本気象学会のオンライン論文誌「SOLA」に掲載される。
CO2は、人間の社会活動に伴う化石燃料の燃焼やセメントの製造による増加が2000年から2005年までの年平均で75億t(不確実性±3億t)、一方で森林による吸収が9億t(±6億t)、海洋による吸収が22億t(±5億t)。この差分、41億t(±1億t)が年々、地球上に増加していくCO2量となっている。
大気中のCO2濃度は年々上昇していることを示すキーリング曲線 |
人間の社会活動でCO2は排出され、それを森林や海洋が吸収するが、吸収仕切れないCO2は大気に残ることとなる。これまでの地上観測のみではその誤差部分が大きく、実際にどの程度のCO2がどこで排出および吸収されたのかが分かりにくかった |
これまでは、地上観測ネットワークを用いて、大気の流動シミュレーションから、大気輸送モデルを用いた逆解法解析(インバースモデル解析)から収支の推定が行われてきた。結果を見て、原因を推定するため、さまざまな原因が同じ結果を出すことも考えられ、非常に難しい計算となっていた。これを「いぶき」で、総合的な大気輸送状況の観測を行うことで、亜大陸レベルでの吸収排出量の推定精度を向上させ、京都議定書の第1約束期間(2008年~2012年)における地域ごとの吸収排出量の把握や森林炭素収支の評価などを進めようというのか、「いぶき」の基本理念だ。
具体的には、「いぶき」によるCO2の観測濃度データと地上測定ネットワークデータの2009年観測分とを併用し、2009年6月から2010年5月までの12カ月分の全球の月別・64地域別のCO2吸収排出量(正味収支)を算出した。この結果、月別・地域別のCO2吸収排出量(正味収支)の推定値に関する不確実性は、地上観測域の空白域である南米、アフリカ、中近東、アジアなどの領域において、年平均値で最大50%程度減少したほか、北半球の夏季に北半球高緯度地帯で大きな吸収(植物による光合成の効果)、冬季に排出(植物による呼吸の効果)となる傾向が見られ、従来の知見とほぼ同様の結果が得られたということで、今後の「いぶき」の継続的観測と今後のデータ処理プロセスのさらなる向上により、気候変動による陸域生態系の吸収排出量の変化の早期検出ができるようになることが期待されるという。
解析を行った12カ月のCO2全球収支は、同期間の地上観測データが示すCO2濃度増加率から求めた値とほぼ同様の4GtC/年程度となっており、この収支の値の妥当性や化石燃料消費による人為起源や自然起源の寄与については、今後さらに確認を進めていく必要があるが、「いぶき」の観測データの活用により地上データのみの時と比べて、月・地域によっては異なる推定結果が得られていることもあり、今後も「いぶき」の観測データを活用していくことで、現象の理解が深まっていくものとの期待を示す。
従来の地上観測ネットワークと「いぶき」の観測データをあわせたCO2の月ごとの平均濃度データ。濃い赤になると高いCO2濃度、濃い青になると低いCO2濃度となっている |
全球を64領域に分割した各地域のCO2の収支量のデータに「いぶき」のデータを加えることで、地域ごとの不確実性を減らせるようになる |
なお、環境省、NIES、JAXAの3者は、今回の成果により「いぶき」の観測データの有用性が示されたことを受け、炭素循環解明、地球環境監視、世界の気候政策への貢献をさらに充実させることを目指した性能を向上させた後継機の開発を、2016年ごろを目指して検討を進めており、後継機では性能を向上させたFTSセンサのほか、衛星データの解析アルゴリズムや収支推定モデルの改良と処理プロセスの高度化を行う予定としている。また、米国などでもCO2などの温室効果ガスの観測を専用で行う衛星の打ち上げ計画が進められていることから、将来的にはそうした衛星との国際連携などにも取り組んでいく計画としている。