観察・学習しながら成長するSilk
通常Webブラウザは、まずHTMLファイルを受け取り、そしてWebページの構成を把握してから他のアセットのダウンロードを開始する。Silkはページロードの結果を収集しながら、ページの特徴を分析し、結果をEC2に蓄積・管理する。そのデータを活用して、従来のブラウザがホストサーバとの接続に取り組んでいるような段階、つまりサイトがブラウザに指示を与える前の段階でページに関連するコンテンツのFireへの転送を開始する。
またSilkには、アマゾンの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」に用いられている学習アルゴリズムやフィルタリング技術が採用されている。収集したトラフィックパターンのデータを基に、サイトごとに最適なレンダリング方法を選び出し、そしてユーザーの行動を先読みする。例えば、あるニュースサイトで訪問者の85%がメインページからトップヘッドラインのニュースをクリックしている場合、Silkはトップヘッドラインのニュースページを集中的にキャッシュし、ユーザーがメインページを訪れた時点でトップヘッドラインニュースのコンテンツをFireに送信し始める。実際にユーザーがトップヘッドラインをクリックすると、記事ページがローカルにキャッシュされていたように素早く開く。
![]() |
![]() |
Fire(左)とEC2(右)が作業を分担するからSilkは"スプリットブラウザ"と呼ばれている。HTML、CSS、JavaScrpt、コレクター、レイアウトなど分担項目は数多く、サイトの構成に応じてFire側とEC2の分担の度合いが動的に調整される |
著作権侵害やプライバシー問題の指摘も……
SilkはAmazonがAWSを持っている強みを活かした独特なブラウザである。しかしながら、そのアイディアがパソコンとモバイルデバイスの間に存在するWebブラウジング体験の隔たりを解消するきっかけになると期待の声が高まっている。
一方で、クラウドアクセラレーションに対する懸念も聞こえてくる。例えばCenter for the Study of Innovative FreedomのStephan Kinsella氏は、Silkがユーザーの行動を推測し、EC2がWebページをキャッシュするのが著作権侵害に相当する可能性を指摘している。「技術的には有効だが、実際のところ画像やファイル、NY TimesのWebページなど著作権で保護されたコンテンツのコピーをAmazonのサーバに作成し、それらをAmazonのクラウドサーバがホストしているような形でKindle Fireユーザーに提供している」と同氏。
またSilkはユーザーが訪れたURL、IPアドレス、MACアドレスなどを記録し、それらを最長30日は維持し続ける。ユーザーデータは個人に結びつけられない形で保管・利用されるが、それでもSophosのChester Wisniewski氏はプライバシー問題が生じる可能性があると見る。さらに、SilkのFAQページでAmazonがクラウドからセキュア(https)な接続を実現すると主張している点についても、同氏は「中間者(man-in-the-middle)SSLプロキシを用いてSSLブラウジングもアクセラレートさせるために、AmazonがSilkブラウザ内に証明書をインストールするのを認めさせようとしているのではないか」と懸念を示す。
利用規約を読むと、Silkユーザーはクラウドサービスを用いる「ベーシック・モード」と、通常のモバイルブラウザのように動作する「オフクラウド・モード」を選択できる。Amazon自身、Silkに対してプライバシー侵害が指摘される可能性を意識しているようだ。
Kinsella氏やWisniewski氏が指摘するような問題の存在は否めない。ただ、Silkがプライバシーを侵害すると無闇に否定していては、その革新的なアイディアが日の目を見ることなく終わってしまう。つまり、ベーシック・モードで動作するSilkは現時点ではまだ万人向けとは言いがたいということだ。まずは、クラウドサービスを利用するメリットとデメリットを十分に理解した先進的なユーザーを核に技術が試され、その有効性が議論されるべきだと思う。そのためにはAmazonがSilkの特徴とリスク、プライバシーコントロールを分かりやすく正確にFireユーザーに伝えることが重要になる。