東京工業大学フロンティア研究機構の細野秀雄教授(応用セラミックス研究所兼任)、溝口拓特任准教授および応用セラミックス研究所の神谷利夫教授、松石聡助教の研究グループは、SrGeO3(ゲルマン酸ストロンチウム)の組成からなる新しいタイプの透明電子伝導体を実現したことを明らかにした。同成果は「Nature Communications」に掲載された。

In2O3やZnO、SnO2などの酸化物群に代表される透明電子伝導性酸化物(TCO)のような透明電子伝導性材料は、FPDや太陽電池の電極としてIn2O3:Sn(ITO)が有名だが、その構成元素であるInは中国からの輸入にほぼ依存しており、さらなる安価かつ安全な元素を用いたTCO材料の開発が求められていた。

研究グループでは今回、典型的な絶縁体として認識されているゲルマニウム系酸化物(光ファイバには、SiO2-GeO2系ガラスという大きなバンドギャップを持つ材料が用いられている)に注目して研究を行った。イオン結合性の強いインジウムやスズの酸化物と比べ、ゲルマニウムの酸化物は強い共有結合性を有しており、この強い共有結合は酸化物半導体におけるバンドギャップ(Eg)を大きくし、絶縁性を示すが、固体中での化学結合は、結晶構造を適度に組み替えることで、その強弱を調節可能であることに注目し物質探索を進めた結果、ペロブスカイト型SrGeO3(高圧相)に関する研究に到達したという。

具体的な手法としては物質を構成する元素の酸化物をそれぞれ出発原料として、SrGeO3(低圧相(常圧))を合成し、それを高温高圧処理(1100℃、5.5GPa)することで目的の物質を合成したという。

周期表に青色で示されているのが、これまで知られているTCOに用いられる元素。右がSrGeO3(高圧相)の結晶構造

作製した物質について、粉末X線回折により結晶構造がペロブスカイト型SrGeO3(高圧相)となったことを確認したほか、光学測定(反射およびエリプソメトリ)から、白色(可視光を吸収しない)の同物質はEg=3.5eVの半導体であることが確認された。

SrGeO3(高圧相)の写真、およびLa置換したサンプルの電気伝導度の温度依存性

また、結晶中のSr2+位置を少量のLa3+で置換し、電子をドーピングしたところ青黒色に変化し、電気伝導度3S/cmの電子電導性を発現。反射測定から、0.5eVに反射端(プラズマ反射)が検出され、自由電子の存在を確認したほか、光学電導度(光学的に測定される物質本来の電導度)は400S/cmと計算され、直流伝導度の値は、粒界絶縁層の存在により低下していることが判明し、これにより、粒界を含まない状態(単結晶や単結晶薄膜)にすれば、2桁以上の電導度増加が見込まれるという。

SrGeO3の結晶構造は低圧(常圧)ではGeO4正四面体により構成され(Eg=5eV以上)、これが高圧処理を行うことによりGeO6正八面体により構成されるペロブスカイト型に変化する。固体の電子状態計算によれば、高圧型結晶におけるGeとOの間の化学結合の電子状態は典型的な透明電子伝導体のものであることが明瞭に示唆されているが、今回の物質は、高圧合成で得られるにもかかわらず、室温、大気下で十分に安定である点も特記されるべき点であるという。

なお、今回の研究で発見された高圧型SrGeO3は、ゲルマニウム酸化物という従来の常識では絶縁体としか考えられなかった物質を透明電導体にした、という意味で新たな知見を与えるものであり、今回は高圧合成法で実現したが、薄膜合成プロセスを適用することで、高圧相の安定化が実現されることは多くの物質でよく知られていることから、同物質も薄膜化による透明導電膜としての利用が期待される。

また、研究グループでは今回の研究で行ったような固体の電子構造に基づく材料設計手法を、高圧処理などの極限的実験手法と組み合わせることで、さらに高い電気伝導度を有する軽元素化された透明電子伝導材料を開発することにつながるほか、他の機能材料開発へもこうした技術を応用することで、さらなる高機能な材料の創出が進む可能性がでてくるものとの期待をよせている。