東京大学は8月29日、麹(こうじ)菌がビタミン類を作るメカニズムの一部を解明したことを発表した。
今回の成果は農学生命科学研究科によるもの。米国生化学会誌「The Journal of Biological Chemistry」の8月26日オンライン版にて公開された。
麹菌(画像1)は、日本酒、味噌、しょう油などの受像に用いられており、日本人の食生活とは切っても切れない関係にある菌類。甘酒も麹菌が作る飲食物の1つで、ビタミン類が豊富な飲料だ。しかし、なぜ麹菌がビタミンを生合成できるのかはこれまでわかっていなかったのである。
今回の実験では、麹菌の「ペルオキシソーム」という細胞小器官の役割について解析するため、まずその機能を欠損した株を作製。すると、栄養を最小限にした条件下では、株が生育できないことが判明した。だが、ビタミン(ビタミンB7)の一種であるビオチンを添加したところ、生育が回復することもわかったのである(画像2)。
画像2。野生株(上側)とペルオキシソーム機能欠損株(下側)との育成の比較。栄養が最小限の場合、野生株は普通に増殖するが、欠損株は増えない。一方、ビオチンを添加すると、欠損株でも野生株と変わらないほど増殖する |
これらの結果からビオチン生合成経路の酵素がペルオキシソームで機能しているのではないかという予想が立ち、それらの細胞内の局在解析を実施。そして、「BioF」というビオチン生合成経路の酵素の1つが、ペルオキシソームに輸送されることを確認したのである。つまり、BioFがペルオキシソームに輸送されて機能して初めて、ビオチンの生合成が行えるようになることが判明したというわけだ(画像3)。
真核生物の中では、ほかに植物もビオチンを生合成しているが、研究グループはここでもペルオキシソームの関与を示唆するデータを取得しているという。真核生物のビオチン生合成経路の全貌解明はまだだが、今回の結果はそれに対する重要なカギとなるとしている。
また、麹菌や植物に共通してペルオキシソームの形成や代謝を操作し、ビオチン生産を増強する新しい育種法を開発できる可能性も得られたことから、今後は栄養価をさらに高めた機能性食品の開発にもつながるとした。