物質・材料研究機構(NIMS) 太陽光発電材料ユニットの韓礼元ユニット長らの研究グループは、色素増感太陽電池の世界最高効率をおよそ5年ぶりに更新したことを発表した。同成果の詳細は8月29日に開催される「2011年秋季第72回応用物理学会」にて発表される予定。

色素増感太陽電池は、導電性透明電極(TCO電極)、光を吸収する役割を担う色素が吸着した酸化チタン(TiO2)などの多孔質半導体層、ヨウ素系電解質、対極から構成されており、これら安価な材料および高温・高真空プロセスを必要とせず、スクリーン印刷で大量生産が可能であることから、発電コストを下げられる次世代太陽電池の1つとして期待されているが、そのエネルギー変換効率は2006年シャープが11.1%のものを開発して以降、その値が最高となっていた。

色素増感太陽電池の動作原理。色素が光を吸収することで発生した電子が、TiO2層に注入され、TCO電極から外部回路を通して対極に移動する。電解質中のI3-が対極の表面で電子を受け取りI-になり、I-が色素表面に移動して電子を色素に戻す。動作原理からも分かるが、色素が光吸収と電子の生成に重要な役割を果たしている

今回、研究グループでは、TiO2表面上における色素の吸着状態をシミューレーションすることで、より良く吸着できる状態にするための新たな増感促進剤を開発。その増感促進剤を用いることで400nmから800nmまでの可視光領域の外部量子収率を80%程度に向上させることに成功し、短絡電流密度を向上させることができたほか、同促進剤により開放電圧も向上することが確認された。

各種太陽電池の変換効率の推移

この促進剤を用いて太陽電池を作製し、疑似太陽光AM1.5G(100mW cm-2)の照射下で、短絡電流密度21.34mA cm-2、開放電圧0.743V、フィルファクター0.722を実測したところ、変換効率(η)は11.4%となり、5年ぶりに国際的な標準試験機関の公式データとして世界最高効率を更新したことが確認されたという。

産業技術総合研究所(産総研)太陽光発電工学研究センター 評価・標準チームによって計測された色素増感太陽電池の電流-電圧特性

今回開発された促進剤がTiO2/色素/電解液の界面の構造や電荷移動に何らかの影響を与えることで、短絡電流密度と開放電圧が大幅に向上したと考えられることから、研究グループでは今後、同促進剤の役割を明らかにし、改良を進めることで、TiO2表面での色素吸着状態や界面電荷移動を制御していき、最終的には変換効率15%の達成を目指すとしている。

また、これらの成果を民間企業との共同で実用化研究を積極的に推進することで、火力発電並みのコスト(7円/kWh)の実現を目指すとともに、太陽電池の普及を推進していきたいとしている。