情報通信研究機構(NICT)は、大阪大学(阪大)と共同で、電波による世界最高速である「毎秒40ギガビット(40Gbps)」の無線伝送実験に成功したことを発表した。従来の伝送実験最高記録は27Gbpsであり、40Gbpsは無線LANの約130倍の速度となる。具体例を挙げれば、32GBのデータを転送するのに無線LANなら850秒(約14分)かかるところ、わずか6秒程度で済むという速さだ。スーパーハイビジョンの非圧縮伝送も可能となる速度である。

今回の実験では、高速伝送に適してはいるものの、発生させることが難しい30GHzから300GHzの周波数帯の「ミリ波帯」を利用して行われた。

ミリ波帯が利用されたのは、高速伝送に適しているからだけでなく、現在の無線LANが利用している「マイクロ波帯」は非常に利用が集中していて混雑していることも理由の1つだ。特に周波数の低い帯域は携帯電話やPHS、地上波デジタル放送、業務用無線などがひしめいている具合である。

それに対し、ミリ波は混雑していない帯域で、中でも60GHz帯は幅広い用途に解放されており、近年ではハイビジョンテレビの画像をケーブルなしで伝送するための装置なども実用化されている。

今回の実験で用いられた機器や技術は、NICTがこれまでに開発した「光によるミリ波発生装置」(国立天文台と共同開発)、「高速高精度16値光変調器」、新たに開発した「光・ミリ波変換器」、阪大の開発した「デジタル信号処理技術」となっている(図1)。

光通信向けに開発された高速高精度光信号発生と、デジタルコヒーレント受信技術をベースとしており、光の広帯域性を活かしたミリ波帯16値高速変調と復調技術を実現した(図2)。

図1 NICTの実験室の光・ミリ波信号発生部の様子

図2 今回の実験の構成のイメージ図。無線を発信するまでがNICTの技術で、受信してからが大阪大学の技術。広帯域性を活かした光変調・信号処理によってミリ波信号を発生させ、デジタル信号処理でミリ波信号から「0」または「1」のデジタル信号を取り出した

今回は、光ファイバ通信の最新技術を無線技術に適用したのがポイントだ。伝送速度の高速化する手段は、「信号の変化を速くする」と「より複雑な信号形式(変調方式)を使う」の2つがあるが、これまでは光ファイバ通信技術は前者の方向で、無線技術は後者の方向で研究が進められてきた。

要は、光ファイバ通信は信号発生・検出の高速性を向上させて信号の変化を速くする方向、具体的ないい方をすれば変調回数を示すbaud値を上げる形だ。無線技術の法は、高精度性を向上させてより複雑な信号形式(変調方式)を使う方向、2値変調、4値変調、16値変調と変調の値を上げていく形で開発が進んできたのである。

そのため、これまでは光ファイバ通信は単純な信号形式が一般的だったのだが、広帯域性を特徴としていても利用可能な光周波数資源に限界が見えてきたため、無線技術同様に高精度性が求められるようになってきたのが近年。そうして得られた光ファイバ通信の高精度化技術が、今回の実験では逆に無線技術に適用されたというわけである。

つまり、無線技術に迫りつつある光ファイバ通信向けの複雑な信号発生技術を利用して高速性と高精度性を両立させることで、40Gbpsという今回の世界記録を実現したのだ。

ちなみに今回の技術では速度が最も目立つが、従来では困難だったミリ波帯高速信号発生を光技術の広帯域性で実現した点も見逃してはならない特徴となっている。

なお、今後は産学官連携を通して、さらなる伝送容量・距離の拡大を目指した研究開発を進めていくとした。