東北大学(東北大)大学院医学系研究科代謝疾患医学コアセンター・片桐秀樹教授、高俊弘助教、分子代謝病態学分野・石垣泰准教授らの研究グループは、動脈硬化発症の新たな分子メカニズムとして、小胞体ストレスによるCHOPの誘導が関わっていることを明らかにした。同成果は、米国専門誌「Circulation」(電子版)に掲載された。

心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患は日本人の死因の3分の1を占め、食生活の欧米化に伴い増加傾向にある。その原因として、血中コレステロール値の上昇や肥満・メタボリックシンドロームなどが知られており、これらの代謝異常が、血管病変である動脈硬化をひきおこすメカニズムについて、各地で研究が進められている。

CHOPは、小胞体ストレスがかかると増加し、細胞障害を起こすタンパク質として知られており、動脈硬化病変部位ではCHOPが増加していることから、同部位には小胞体ストレスがかかっているものと考えられている。

今回研究グループでは、CHOPを作ることができないマウスを作製し、動脈硬化発症への影響を検討したところ、このマウスは、コレステロールが高くなっても動脈硬化が起こりにくいことが確認された。さらに、この動脈硬化阻止効果は、血管細胞・血球細胞の相互作用による「血管における炎症」が抑制された結果によるものであることが判明した。

大動脈内壁の動脈硬化部位の染色。高コレステロール血症マウス(apoE-/-)の大動脈を縦切りとし、大動脈内壁を染色。動脈硬化部位が赤く染色される。CHOPをもつ通常の高コレステロール血症マウス(上段)では、ほぼ全体的に動脈硬化が形成されるが、CHOPを産生できないようにすると動脈硬化のでき方が圧倒的に少なくなったという(下段)

これらの結果から、小胞体ストレスと動脈硬化との因果関係が直接証明され、「小胞体ストレス→CHOP増加→血管炎症」という一連のプロセスが動脈硬化発症の分子機序に関わっていることが解明されたほか、ステント留置治療の後などで血管が狭窄になった状態に匹敵するマウスモデルにおいても同様に、この「小胞体ストレス→CHOP増加→血管炎症」システムが関与していることが確認された。

小胞体ストレスは、糖尿病や神経変性疾患など、さまざまな疾患の発症メカニズムとして注目を集めているが、動脈硬化や血管治療後の狭窄においても、小胞体ストレスが関わっていること、および、その分子機序としてのCHOPの役割が、今回の研究により明らかにされたことで、今後は、高コレステロール血症による動脈硬化性疾患やステント治療後の血管狭窄など、直接死因につながりうる疾患の新たな予防法・治療法の開発につながるものと期待されると研究グループでは説明している。