高エネルギー加速器研究機構(KEK)などで構成される研究グループは、J-PARCミュオン科学実験施設(MUSE)において、新物質のイリジウム酸化物Ba2IrO4が銅酸化物高温超伝導体の母物質によく似た性質を持つことを明らかにした。

同成果は物質・材料研究機構(NIMS)の岡部博孝研究員、磯部雅朗グループリーダー、青山学院大学の秋光純教授、およびKEK物質構造科学研究所の門野良典教授、三宅康博教授らによるもので、米国科学誌「Physical Review B」(オンライン版)に掲載された。

高温超伝導は、銅酸化物や鉄系物質など、新しい物質で発現することが確認されており、超伝導が発現する温度は最も高いもので約マイナス110℃(160K)まできている。しかし超伝導の活用には、さらなる高温での実現が求められており、物質研究が各所で進められている。同研究グループは、新しい超伝導体の開発とその発現メカニズムの解明に取り組み、今回、6万気圧という高圧下で合成された新物質Ba2IrO4を、ミュオンスピン回転法(μSR)を用いて、その磁気状態を観測した。

Ba2IrO4の結晶構造。(出所:KEK Webサイト。画像:物質・材料研究機構 強相関物質探索グループ)

Ba2IrO4は、代表的な銅酸化物超伝導体La2CuO4と結晶構造が一致しているのみならず、電子のスピンと軌道の相互作用による新しい絶縁体状態を形成していると考えられている。

物質の局所磁場を測定できるμSRで詳しく調べた結果、Ba2IrO4はマイナス33℃(240K)以下でスピンの向きが互い違いに秩序よく並ぶ反強磁性相が出現することが確認された。

Ba2IrO4の温度変化による内部磁場の大きさの変化。240K以下で一様な内部磁場が現れる。これは、低温で、物質内のスピンが互い違いに並んでいること(反強磁性、左下図)を示している。(出所:KEK Webサイト、画像:物質・材料研究機構 強相関物質探索グループ)

さらに詳細な解析を行ったところ、個々のイリジウム原子が持つ磁気モーメント(磁石の強さ)が、理論値よりもかなり小さいことが判明。これらの現象は、高温超伝導体の母物質の銅酸化物でよく観測されている現象であることから、Ba2IrO4でも高温超伝導につながる可能性があることが示唆されたと研究グループでは説明している。