京都大学(京大)は、同大医学部附属病院が、有効な治療法の乏しい進行期メラノーマに対して、樹状細胞を用いた免疫療法の臨床研究を開始したことを発表した。

遠隔転移のある第IV期メラノーマ(悪性黒色腫:皮膚などに発生する悪性腫瘍)は難治性の疾患で、その生存期間を有意に延長させる有効な治療法がなく、また既存の薬物療法(化学療法やサイトカイン療法)は副作用も強いため、有効性と安全性に優れた新しい治療法の開発が求められていた。

メラノーマは免疫療法が比較的有効な悪性腫瘍として知られており、さまざまな方法が試みられているが、有効性と安全性において満足できる治療法は確立されていない。今回の臨床研究では、患者自身の血液細胞を培養して樹状細胞とよばれる免疫反応を高める細胞を誘導し、これにメラノーマ抗原(免疫反応の標的)を加えて投与するとともに、免疫反応を増強する薬剤を併用して効果を高めることを狙う。

樹状細胞療法は、患者自身の免疫細胞である樹状細胞に体外でがん抗原を加えて投与する免疫療法の1つ。体内に戻された樹状細胞がリンパ器官に移動し、がん抗原を提示して、がん細胞を攻撃する細胞傷害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte:CTL)を活性化するもの。同病院の共同研究先であるSBIバイオテックが樹状細胞療法の分野で世界有数の研究施設である米国ベイラー研究所(Baylor Research Institute)とのライセンス契約締結を受けて進めてきたもので、技術移転を進めてきた。

今回の臨床研究は、医学部附属病院医の倫理委員会の承認を得て、血液・腫瘍内科と皮膚科が、輸血細胞治療部、探索医療センターを中心とした院内各部署の協力の下、共同で実施する。10名の患者を対象とし、安全性と有効性を検証する予定で、2011年7月より登録を開始し、登録期間は2年間を予定している。

なお、今回の研究により、同治療法の安全性と有効性が確認されれば、現在、有効な治療選択肢のない進行期メラノーマ患者に対して、QOL(Quality of Life:生活の質)を維持しながら生存期間を延長できる新たな治療法になるとともに、メラノーマの予後改善につながるものと期待される。