京都大学(京大)情報学研究科の木村欣司特定准教授は、数式処理による16次方程式の判別式計算に成功したことを発表した。
ものづくりにおいて、材料が持つ特性、組み合わせた時の強度やバランス、外部刺激に対しての耐久性などを解析する際に、コンピュータによる計算が用いられるが、現在では、ものづくりで必要となる計算が複雑になっており、高性能なサーバや、専用のアルゴリズムを活用して計算が行われる。そうした、ものづくりに必要な計算の1つである方程式の判別式計算は、江戸時代の和算家(数学者)である関孝和にルーツがあり、建築物の強度をそのままに材料を削減することや、半導体の製造時の歩留まりを向上させることなど、ものづくりに必要な技術となっており、より高い次数の判別式計算ができれば、品質の高い製品を短期間で設計することが可能になる。
これまでコンピュータで計算可能な判別式計算は15次方程式まで、複雑化・高機能化する"ものづくり"に対し、16次以上の方程式の判別式計算が求められていた。
今回は、同大では富士通のサーバ「SPARC Enterprise M9000」とミドルウェア「Parallelnavi」、および富士通研究所の数式処理技術を用い、同准教授が開発した「多項式補間法」に基づく新しい計算アルゴリズムにより実現した。
数値計算では数式の計算を数値で行い、割り切れない場合などには近似値を求めるが、今回用いられたような数式処理では数式を式のまま記号的に処理し、誤差なしで正確な計算が可能であるため、数学の分野以外でも、インターネット社会のセキュリティ基盤である暗号技術の計算にも活用されているほか、近年では製品開発の工数やコストの削減、品質や信頼性の向上を目指し、数値計算とともに数式処理を活用して設計を行う「数式モデルベース設計」にも用いられている。
また、方程式の判別式計算としては、方程式の係数であるa、b、c、…からなる式を数式処理によって計算する。判別式の計算で必要となる大規模な行列式を効率よく計算するための技術は、数式処理の基本をなす基盤技術で、16次方程式の判別式は、3,798,697,446個の項からなり、その大きさは88GBにおよぶ巨大な式となっている(15次方程式の判別式は、663,316,190個の項からなり、大きさは14GB)。
なお、「多項式補間法」を用いると、行列式の数式処理に必要となる計算量を従来より減らすことが可能となり、これにより従来は不可能だった16次方程式の判別式を高速に計算することに成功したという。