理化学研究所は6月15日、マウスを使った実験により、学習の効果を上げるには休憩を取ることが重要であることを解明したと発表した。これは、理研脳科学総合研究センター運動学習制御研究チームの永雄総一チームリーダーと岡本武人テクニカルスタッフ、東京都健康長寿医療センター遠藤昌吾部長、群馬大学医学部白尾智明教授らとの共同研究による成果。

一般に、一夜漬けなど短時間の学習(集中学習)によってできた記憶に比べ、適度な休憩を取りながら繰り返し学習(分散学習)による記憶のほうが長続きするとされている。心理学ではこの現象を「分散効果」と呼び、効果が現れる原因として、脳内の短期記憶から長期記憶への変換のプロセスが想定されている。

分子レベルでのこのメカニズムの解明は進んでいなかったため、同研究グループはマウスの眼球の運動学習に着目し、集中学習と分散学習の記憶が脳のどの部位に保持されているのかを実験で調べた。

同研究グループは2006年に、1日1時間の運動学習を3日以上長期間行うと、小脳皮質のプルキンエ細胞がシナプスを介して出力する小脳核の神経細胞に別の記憶が形成され、それが長い間保持されることを発見している。今回、この「記憶痕跡のシナプス間移動」が、分散効果の原因でもあるかどうかを調べるため、眼球運動の学習プロトコルを開発し、集中学習と分散学習によって作られる記憶の場の同定に挑戦した。

この仮定を確認するため、マウスを運動学習させた終了直後に小脳皮質に局所麻酔剤を投与し、その部位の活動を止める(出力遮断)実験を行った。その結果、集中学習させたマウスの記憶は小脳皮質の出力遮断で消えてしまったが、分散学習させたマウスの記憶は影響を受けなかった。

これは、集中学習でできた記憶は小脳皮質にあるが、学習中に休憩を取ることで、記憶を保つのに必要な「記憶痕跡のシナプス間移動」が生じ、記憶が小脳核へと移動することを示しており、「学習には休憩が大事だ」ということが科学的に証明された。

集中学習させたマウスの記憶は小脳皮質の出力遮断で消えたが、分散学習させたマウスの記憶は麻酔の影響を受けなかった 資料:理化学研究所

さらに今回の研究で、記憶を固定化するにはたんぱく質が必要なことが明らかになっており、記憶を固定化するために必要なタンパク質を同定することができると、記憶障害を伴う病気の治療に大いに役立つと期待される。

記憶を固定化するには何らかのたんぱく質が必要なことがわかった 資料:理化学研究所