富士通研究所は、手のひら静脈情報と指3本の指紋情報だけで、100万人規模のデータの中から特定の個人を2秒以内に特定する技術を世界で初めて開発したと発表した。すでに、実用化できるレベルにあるという。

認証画面

富士通研究所 フェロー 松田喜一氏

指紋認証や手のひら静脈認証は、PCや銀行のATMなどですでに実現されているが、これらは事前にユーザーIDや口座番号を使ってユーザーを特定した上で、本人データと照合する1:1認証。一方、富士通研究所が開発した技術は、こういった個人を特定する情報を利用せず、生体情報のみで認証する1:N認証だ。そのため、IDカードや預金通帳といったものが必要なく、体一つで本人を特定できる。

富士通研究所 フェロー 松田喜一氏は、声紋、顔、署名、光彩といった数ある生体認証の中で、指紋と静脈を選択した理由として、認証精度が高く、利用が簡単な点を挙げる。また、2つの情報を利用することで、精度を上げられる一方、センサーどうしが干渉しないというメリットもあるという。

富士通研究所では認証精度が高く、利用が簡単な指紋と静脈に研究開発を集中させているという

今回の認証システムは、3指による指紋情報と手のひら静脈情報を、新たに開発した読み取り装置により一度の操作で取得し、複数サーバで並列処理することにより認証2秒以内を実現している。同社では、高速化と認証精度向上のため、「手のひら静脈と3指の指紋のデータを同時に安定取得する技術」、「識別対象数を高速に絞り込む技術」、「手のひら静脈と複数指紋の融合で特定の1人を正確かつ安定に識別する技術」、「識別処理の並列効果を高める技術」という新たに4つの技術を開発した。

富士通が新たに開発した、3指の指紋情報と手のひら静脈情報を一度の操作で取得する読み取り装置

「手のひら静脈と3指の指紋のデータを同時に安定取得する技術」では、手のひら静脈の高速撮影の開発で蓄積したノウハウなどにより、手のひらを一度かざす一連の動作の中で手のひら静脈と指紋の情報を安定に取得する技術を開発。

「手のひら静脈と3指の指紋のデータを同時に安定取得する技術」

「識別対象数を高速に絞り込む技術」では、手のひら静脈と3つの指紋から合わせて4つの絞り込み用特徴情報を抽出し、100万人から1万人までの絞り込みを0.1秒以内に行っている。これは比較的処理の軽い数値だけで行える演算処理によって絞り込みを行っているため高速化できるという。

「識別対象数を高速に絞り込む技術」

「手のひら静脈と複数指紋の融合で特定の1人を正確かつ安定に識別する技術」では」、1/100まで絞り込んだデータを対象に、手のひらと3つの指紋の識別結果を合わせて判定することにより、正確かつ安定に1人を特定する融合判定技術を開発したという。

「手のひら静脈と複数指紋の融合で特定の1人を正確かつ安定に識別する技術」

富士通研究所 ソフトウェアシステム研究所 主管研究員 新崎卓氏

そして、「識別処理の並列効果を高める技術」では、識別処理を複数のサーバで並列して行う技術を開発した。この技術では、識別すべき人数に応じて識別処理を行うサーバ数を増減させることも可能で、クラウド環境での利用に適しているという。

富士通研究所 ソフトウェアシステム研究所 主管研究員の新崎卓氏によれば、生体情報だけで100万人の中から一人を特定する場合、これまでの技術であれば数10分必要だと語る。

「識別処理の並列効果を高める技術」

同社では、1万人まで絞り込む技術の精度を上げ、2011年度中には1000万人規模の認証を可能にする予定で、今後は1億人規模の認証を目指すという。

富士通研究所 代表取締役社長 富田達夫氏

富士通研究所 代表取締役社長 富田達夫氏は、同社が開発した技術の利用について、「食、環境、エネルギー、健康など、実世界には多くの情報があるが、現在のICTではこれらの情報の取得がまだ不十分で、単なる情報の検索ということに留まっている。ただ、今後センサーが発達すれば、さまざまな情報があふれ、情報過多になってしまい、いろいろな行動を抑制することになる。我々は、人間が行動する中で得られるさまざまな情報をICTに取り込み、単なる情報ということではなく、価値、知識として実社会に返し、知的社会を実現することを目指しており、それが富士通のビジョンだ」と述べた。