ソニー 執行役EVP CFO 加藤優氏

ソニーは5月23日、2010年度の業績見通しが2600億円の最終赤字になることを明らかにした。2010年度の業績および2011年業績見通しは、5月26日に発表される予定だが、2011年度は2,000億円規模の営業利益確保と、最終黒字転換を目指す考えを示した。

同社は「2010年度の連結売上高・営業利益は東日本大震災の影響を受けたものの、2011年2月の公表値通りを見込んでいる」とする一方で、「第4四半期において、日本における繰延税金資産に対し、現金の支出を伴わない約3,600億円の評価性引当金を計上するため、当期純損益は2月の想定を大幅に下回り、損失を計上する見込み」とした。執行役EVP CFOの加藤優氏は「これはソニーの連結営業利益やキャッシュフローに影響を及ぼすものではなく、経営戦略を変更するものでもない」と説明した。

修正した2010年度の業績見通しは、売上高が7兆1,810億円(2月公表値は7兆2,000億円)、営業利益が2,000億円(同2,000億円)、税引前利益が2,050億円(同2,000億円)、当期純損益がマイナス2,600億円の赤字(同700億円の黒字)。2010年度業績に対する東日本大震災の影響は、売上高で220億円、営業利益で約170億円とした。

ソニー 2010年度連結業績見通し

被災した製造事業所の棚卸資産、設備、建物の原状回復、固定資産の除却損、減損として110億円の費用や損失が発生したが、原状回復費用などのほぼ全額が、受け取り保険金収入でカバーできるとした。

営業利益に対する営業額の内訳は、稼働停止期間中の製造事業所の固定費、金融分野における支払い生命保険費に対する引当金として120億円、売上減少に伴う利益の減少が50億円となる。

エレクトロニクス部門の業績はリーマンショック以降回復基調にあるとするものの、同社単独および同社を含む72社の国内連結納税対象会社において、2008年度からの3年間の累積損失を計上。米国会計原則では、3年累積での損失は繰延税金資産の回収可能性を評価するうえでマイナス要因と見なされ、さらに日本における税務上の欠損金の繰越期間が7年間、東日本大震災が及ぼす短期的な業績見通しに及ぼす影響が大きく、マイナス要因を克服することが困難と判断し、評価性引当金を計上したことが最終赤字の理由とした。

欠損金の繰越控除に関する税金会計

「2月の公表値段階では、ここ数年の業績回復基調を踏まえ、大幅な業績の回復を見込んでいた。2011年度において大幅に収益が改善すると見込まれる場合は、評価性引当金を計上する必要がないため、繰延税金資産を計上してきた。しかし、震災の影響により、2011年度の収益見通しが悪化したために会計原則に基づいて評価性引当金を計上」

2011年度における東日本大震災の影響は、売上高で約4,400億円、営業利益で約1,500億円と想定されている。加藤氏は、「震災の影響はあるが、売上高は前年度比で増収になると見ている。また、営業利益は前年度並みの2,000億円、最終利益の計上も見込んでいる」と黒字化に意欲を見せた。

だが、エレクトロニクス部門については、「広範囲で震災の影響が出ている。モノづくりができない、モノづくりが遅れるといった影響もあり、計画の修正を余儀なくされる状況にある。また、調達部品の変更、修正などもあり、当初の事業計画通りのコストダウンが達成されない可能性も高い。海外を含めたサプライチェーンにも影響が出ている。ただ部品調達についてはかなりの透明度が出てきている。第1四半期はかなりの影響が出ているが、第2四半期はかなり改善し、下期は完全払拭とはいえないが想定していた軌道に戻せるだろう」とした。

一方で、2011年度の業績に影響することになるPlayStation Network/Qriocityなどの同社ネッワークサービスへの不正アクセス対策に関する費用は、「現時点では営業利益で約140億円の影響があると試算している」という。

この中には、一部地域で実施している個人情報への不正利用に対する損害が発生した場合に関するプログラムの費用(一定期間内に一定金額までの支払いが行われる保険費用も含まれる)、ネットワークセキュリティの強化に関する費用、音楽・ビデオ・ゲームなどの一部サービスの無償提供、各種カスタマサポートに関する費用、法務・調査関連費用、売上減に伴う利益への影響が含まれている。なお、現時点では個人情報やクレジットカードの不正使用の事実は確認されていないという。

「140億円は現時点で当社が把握している情報をもとに合理的に試算できる費用を出したもの。だが、クレジットカードの不正使用などの事実があった場合は費用も変更されることになる。また、いくつかの訴訟が提示されていたり、行政機関から問い合わせを受けたりしているが、いずれも初期段階であるため、現時点では2011年度の業績に発生しうる費用としては試算していない」とした。そのため、今後の経過次第では、費用が増加する可能性があり、業績への影響も懸念される。

同社は2012年度に「営業利益率5%」という中期目標を掲げているが、現時点ではこれに関する修正はなかった。