同社のこうした各事業の成長を支える1つの柱となるのが新興国の経済成長。2010年度の同社売上高に見る海外比率は55%。これを2013年度までには新興国32%、先進国33%、国内35%とすることを目指し、「今回の震災を受けて、BCPの考え方を改めないといけないと感じている。元々マルチベンダで部品供給などを受けているが、同じ地域のベンダから調達していては意味がない。今後は、そうしたことを踏まえつつ、海外展開を4つの事業それぞれで最適化を図っていく」とした。

BCPの見直しによるグローバルでの生産、調達、販売のさらなる最適化により、地域販売比率の均衡化を推進。特に新興国と欧米地域は市場の平均成長率を大きく上回る成長を目指す

その4事業別に戦略を見ると、デジタルプロダクツ事業は各地域にフィットした製品の開発、展開を進め、国内ではグラスレスの40型以上の3Dテレビを2011年下期に出すほか、グラスレス2D/3D同時表示可能なPCを同7月に発表する計画で、2013年度には液晶テレビおよびノートPCで合計6000万台の出荷を目指す。また、重点4カ国であるインドネシア、ベトナム、インド、中国でのブランドイメージの確立を目指すとするほか、インドネシア、ベトナム、インドに地域デザイン部門を2011年7月に設置したり、ASEAN地域の特性に配慮した「Power TV」の進化版を同下期に投入するなどを計画。フィリピンにはすでに現地法人を設立しているほか、南米やアフリカでも拠点を2011年度中に設立する方針で、地域に根ざした展開を強めることで全体で2013年度3兆1000億円の売り上げを目指す。

デジタルプロダクツ事業の戦略。世界初の商品やNo.1商品などを世に出していくほか、それぞれの地域にフィットした商品を各地域でデザインし、提供していく

電子デバイスは、NAND型フラッシュメモリに加え、高効率素子やSiCやGaNなどの次世代半導体材料を活用することでパワーデバイスでのトップシェア獲得を目指すほか、400ppiを実現する5.5世代の携帯機器向け低温poly-Si(LTPS)の新工場が2012年4月に稼動する計画で、これらの施策により2013年度では1兆8500億円の売上高を目指す。

電子デバイス事業の戦略。NAND+パワー半導体という形で推進していく方針

社会インフラは米国で高いシェアを維持する火力発電を新興国向けにシフトを図り、ボイラー・蒸気タービン・発電機(BTG)の一括供給による受注拡大を図る。また、電力送変電(T&D)事業を手がけるAnsaldo Trasmissione & Distribuzioneの買収を機に欧州および北アフリカでのT&D事業の拡大を狙うほか、ブラジルに4月、マレーシアに6月、インドに8月、それぞれ拠点を設立するとしており、2013年度で3兆円の売上高を目指す。

ただし、不透明なのが原子力発電事業で、佐々木氏は「福島第一原発の問題を解決しないと先に進めない」とし、最大限事態の収束に向けた協力を行っていくことを改めて強調し、「今回の事象を踏まえ、安全性の向上に向けたレギュレーションの変更と、プラントそのものの改良を図っていく」ことを明言した。しかし、世界的に電力需要が拡大することは必須で、同社が個別に世界の各カスタマに確認したところ、すでに話しが進んでいる案件については計画通りに進んでいるとするも、「新規建設は安全基準の見直しなどが進む」とし、2015年度目標である39期受注、1兆円の売上高を「事故調査委員会などの結果に基づく福島第一の分析を経て、それをどう反映していくかが不透明なため、最大で3年程度は後ろにずれ込む可能性がある」とした。

社会インフラ事業の戦略としては原子力が不透明ながら、火力発電やT&Dでの成長を見込む

そして家庭電器事業は、国内は「省エネがキーワード」ということで、省エネ向け製品の投入を進めるほか、LED照明ではChip on Board(COB)の生産能力を増強することで拡販を進め、2011年度では前年度比で107%の成長を目指す。一方の海外は、冷蔵庫や洗濯機の生産能力を2011年10月より強化するほか、「地域マーケティングの結果に基づく製品の諸地域への投入を図っていく。例えば空調機器の中国・インド・ASEAN諸国向け低コスト中形品では据付面積を従来比43%削減した。これはリアカーに乗せられないと売れないというマーケティングの結果」とし、各地のニーズに最適化した商品を創出していくことで、2013年度には7000億円の売上高を目指すとする。

家庭電器事業の戦略。国内は省エネが最大のポイントとなる。また、海外では、それぞれの地域に即した商品のデザインを強化して、地域にマッチした商品の提供を進めていく

事業グループ別の業績計画

こうした事業の拡大に併せて、健全な財務基盤の確立も進めるという。特に成長加速に向けた原資の確保に向け、営業利益5000億円をベースに株主資本比率22%、D/Eレシオは50%、ROI20%を2013年度末の指標としており、このD/Eレシオ50%であまった余力を活用して「設備投資・投融資で2011年度~13年度で計画している機動枠2000億円と資本改善分5000億円の合計7000億円を生み出せる。これをM&Aや新たな設備投資などに振り分けることで、注力事業の成長加速や新たな収益基盤の確立を図っていく」とするほか、グローバル事業の展開を加速するため、現地法人でのローカル採用の推進や、ローカルで雇用した人材の本社での活用、外国籍の人間の本社採用枠の拡大などを進めていくことで、多様性を生かす組織への変革を進めるとし、「環境変化を乗り越え、グローバルトップへ挑戦していく」とした。

財務体質の健全化により生じた余力をさらなる成長の加速に投じる

グローバル化の推進の一環として、現地法人での採用枠の拡大および、現地法人などで採用した優秀な人物の本社での活用なども進めていくとしている