理化学研究所(理研)は、高輝度光科学研究センター(JASRI)と協力し、播磨科学公園都市の大型放射光施設「SPring-8」に隣接して開発・整備を進めてきた、日本初のX線自由電子レーザー(XFEL)施設が、計画どおりの80億電子ボルト(8GeV)で運転され、波長0.8ÅのX線を発生、観測することに成功したことを発表した。また、この同施設の愛称を「SACLA(さくら)」としたことも併せて発表した。
XFEL施設は、国家基幹技術の1つとして位置づけられ、大型放射光施設(SPring-8)と同じ8GeVの電子ビームからX線レーザーを発振、利用するために、2006年度から5年間の計画でJASRIの協力を得て理研が整備を進めてきたもの。
XFELは、高エネルギーで高品質の電子ビームを、長尺のアンジュレータという磁石列が上下に並んだ装置(全18台)に通してレーザーを生成する。レーザーの生成に向けた第一歩は、構成機器が設計通りに働くかどうかを確かめることであり、理研では「電子銃から引き出された電子ビーム特性の確認」、「その電子ビームの設計エネルギー(8GeV)までの加速」、「アンジュレータ部を通過させ電子ビームダンプ(最終的に電子を捨てるところ)への電子ビームの輸送」、「アンジュレータとX線光学・検出系の性能確認」を実施した。
電子銃から引き出される電子ビームの性能の中で、もっとも重要なものは平行性の高い電子の密度であり、理研が電子銃直下流で1nsの時間幅に切り出した電子ビームの密度をスリットで細かく切り取り、スリットを左右に動かして電子ビーム全体をスキャンする方法で測定したところ、ほぼ設計通りの1πmm mradの値であることが確認できた。
その後、加速器の調整を進め、ほぼ設計ビームエネルギーである7.8GeVまで電子ビームを加速し、アンジュレータ部を経由して、その下流の電子ビームダンプまでビームを輸送することに成功。
16番目のアンジュレータ1台の上下の磁石列の距離を40から約5mmへ縮めて277回蛇行させることで、この電子ビームからX線を放射させ、これをXFEL実験ホールの光学ハッチに導いた。
二結晶分光器を用いてX線のエネルギー分布の計測を行った結果、波長が0.8Åであることが確認されたほか、XFEL専用に開発された2次元検出器(マルチポートCCD:MPCCD)を用いて、分光されたX線の空間プロファイルの撮影にも成功しており、これらの観測結果から、アンジュレータの特性がほぼ設計通りであることが確認された。
今回の試験により、XFELの基本的構成機器の性能が、ほぼ設計通りであることが確認できたことから、調整の精度をこのまま向上していけば、X線の位相をそろえてレーザー増幅を達成できる見通しが得られたと理研では説明しており、今後は、2011年度末のXFEL供用開始に向け、レーザー増幅の出力飽和の早期達成と、それに続く利用試験の実施に向け、効率的な運転調整を実施していく計画としている。
なお、愛称であるSACLA(さくら)は、2度におよぶ一般公募の中から選考されたもので、その選考理由としては、「SACLA」は、SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laserを略したもので、コンパクトで短い波長のX線レーザーを発振できる日本のXFEL施設の特長を的確に表現できているということのほか、日本語の「桜」と同じ音であり、日本らしさを想起させる。
また、XFEL施設と同じ所内に立地するSPring-8が英語のspringから春をイメージさせるため、「SACLA」すなわち桜はSPring-8とも相性が良いと感じられ、かつアルファベットであるため、日本語名と英語名を同一にでき、ほかの科学技術分野の名称・愛称に多く用いられているものと重複がないことから選定されたという。
SACLAという愛称を応募したのは2度目の公募549件中2件で、その2名については後日理研より記念品が贈られる予定。また、ロゴマークについては2006年の第1回公募時に基本となるデザインが採用されており、今回の愛称決定と合わせて正式決定された。こちらは、子ビームが直線的に加速する様子や、電子がアンジュレータで蛇行する様子などを表現したものとなっているという。