計測機器の大手ベンダAgilent Technologiesの日本法人であるアジレント・テクノロジーは3月2日、12bit/14bitと高分解能かつ12G/8Gサンプル/秒(Sps)と広帯域なモジュール型任意波形発生器「M8190A」の販売を開始したことを発表した。この発表に先立つ3月1日に同社は報道機関向けに新製品説明会を開催し、製品の概要を解説した。

モジュール型任意波形発生器「M8190A」の外観。2UのAXIeモジュールであり、外部のパソコンあるいはAXIeのシステム・コントローラによって制御する。出力は2チャンネル

始めにアジレント・テクノロジーの代表取締役社長兼電子計測本部長を務める梅島正明氏が登壇し、新製品の位置付けを説明した。数GHzの帯域を有する任意波形発生器の世界市場はおよそ6,000万ドルとされ、その用途は非常に多岐にわたる。ベンダ別のシェアでは半分以上をTektronixが占めており、Agilentのシェアはまだ、きわめて少ない。

アジレント・テクノロジーの代表取締役社長兼電子計測本部長を務める梅島正明氏

任意波形発生器の応用分野と市場シェア

応用分野が多岐にわたることから、任意波形発生器に要求される仕様はさまざまだという。大きく3つに分けると、「高速・広帯域化」、「低電力化・高ダイナミックレンジ」、「コンパクト化・低コスト化」になると梅島氏は説明していた。そして従来機種をはるかに超える性能を目指し、任意波形発生器「M8190A」を開発したとする。

任意波形発生器は、極端に表現してしまうと大規模なデジタル・アナログ変換器(D/Aコンバータ)である。デジタルデータをアナログ信号波形に変換することで、多種多様な信号波形を出力する。デジタルデータの分解能が出力信号のダイナミックレンジを左右し、デジタルデータのサンプリング速度が出力信号の高速性を左右する。

M8190Aはまず、分解能が非常に高い。14bit分解能で8GSps、12bit分解能で12GSpsの性能を有する。このため、ダイナミックレンジの理論限界がきわめて高い。14bit分解能の理論限界は84dBc、12bit分解能の理論限界は72dBcである。これに対して競合他社の従来品種は分解能が10bitであり、ダイナミックレンジの理論限界は60dBcにとどまるという。

実際のダイナミックレンジ(SFDR:スプリアスフリー・ダイナミックレンジ)は80dBcで、実性能でも高い値を出している。また高調波歪みは-72dBcと小さい。さらに、最大で2Gサンプルと大きな波形メモリを内蔵した。

任意波形発生器に対する要求とAgilentが開発したM8190Aにおける対応

Agilentがこれまでに製品化してきた任意波形発生器。高分解能タイプ、ミッドレンジタイプ、そして今回の新製品(高分解能/広帯域/低雑音)と進化してきた

アジレント・テクノロジーのディジタル・フォトニック・テスト事業部でビジネス開発担当部長を務める山下直也氏

続いてアジレント・テクノロジーのディジタル・フォトニック・テスト事業部でビジネス開発担当部長を務める山下直也氏が登壇し、M8190Aの内容を説明した。

山下氏はM8190Aと競合他社品を比較し、SFDR、分解能、波形メモリ容量の点では競合他社品に比べて優れていることをアピール。また出力信号のリニアリティを高めるために雑音の低減手法を工夫してD/A変換回路にまとめ、ASICとして組み込んだという。ASICは独自開発品で、SiGeのバイポーラCMOSプロセスで製造した。

出力モードはオプションを含めて3種類ある。標準モードが「DirectDAC」と呼ぶI/Q信号の発生モードで、SFDRが高く、高調波歪みが低い。出力周波数は直流~5GHz、出力振幅は350mVpp~700mVpp、差動出力である。オプションのIF/RF出力モード「AC amplifier」は大きな出力信号を得るためのモードで、SFDRや高調波歪みなどの性能はやや下がるものの、出力が-10dBm~+10dBmと大きい。出力周波数は50MHz~4.5GHz。出力はAC結合のシングルエンド。それからオプションのタイム・ドメイン測定モード「DC amplifier」は、シリアルデータの出力に適したモードで、ジッタの低い高速遷移信号を出力する。出力振幅は-1.0V~+3.0Vの範囲で600mVpp~1.0Vpp。出力周波数は直流~5GHz。スイッチング時間は約50ps。信号波形オーバーシュートを低減するフィルタを備える。

M8190Aと競合他社製品の比較。競合他社製品は、TektronixのAWG7000シリーズだと思われる

2GHzのIQ信号を発生させたときの周波数スペクトラム。左が従来の任意波形発生器、右がM8190A

D/A変換回路における雑音除去手法(従来技術)。D/A変換によって生じたオーバーシュートをリサンプリングによって除去している。この方法だと出力が低下することがある

D/A変換回路における雑音除去手法(Agilentが開発した技術)。データ・ビットごとに電流源を設けてアナログ波形に変換する前にリサンプリングする。リサンプリング後にデータ・ビットをまとめてアナログ変換する

なお、M8190Aの価格(税抜き)は約800万円から。この価格は、8GSps、14bit分解能のオプションと、64Mサンプルの波形メモリのオプションを搭載した状態だという。