日本マイクロソフトより無償提供されている統合開発環境ツール「WebMatrix」。ASP.NET環境での動的Webサイト構築に大きく貢献するWebMatrixによって、日本マイクロソフトはWebデザイナーたちに、どのようなWeb開発環境を提供しようとしているのだろうか。日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 井上章氏に話を訊いた。

なお、「WebMatrix」に関するこれまでの情報は以下の記事を参照してほしい。

●無償で始める動的Web構築 -MSの統合Web開発環境ツール「WebMatrix」
●MSの統合Web開発環境ツール「WebMatrix」を無償入手する
●「WebMatrix」の機能を紹介(1)
●「WebMatrix」の機能を紹介(2)

動的Webサイトを効率よく、シンプルに構築する

「WebMatrixは『静的Webサイトから動的Webサイトへの移行をこれから学びたい』という人に最適で、より高度なWebサイトを構築しやすいのです。ステップアップに加え、初めて使う人にも使いやすいように作られています。豊富な機能をすべて無償で利用できる。これがWebMatrix最大の魅力でしょう」と語り出したのは日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 井上章氏。

日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 井上章氏

最近はTwitterなどを含めて、ソーシャルネットワーク系の機能や、それらと連携しながらサーバー側で動的にHTMLを生成するWebサイトが多くなっている。例えば、そうしたサイトを構築する場合に、従来の手法ではコーディングする際のキー入力が多くなる傾向があるのも事実だ。「入力の手間が非常に少ない"Razor"を使うと効率よく、楽しくコーディングができます」と井上氏は語る。

「記述方法は非常に簡単ですが、セキュリティ面も十分に考えられているのも特長です」と井上氏は語る。たとえば、HTMLやスクリプトを含んだ状態の文字列データを扱う場合、そのまま表示してしまうとスクリプトが実行されてしまう恐れがある(Cross Site Scriptingの脆弱性)。一方、Razor構文を使ったASP.NET Webページでは、文字列はデフォルトでHTMLエンコード処理がおこなわれるため、文字列データにスクリプトを含んでいても単純な文字列としてWebページに表示されるようになっている。ASP.NET Webページを使うことで、Webサイトに誤ってCross Site Scriptingの脆弱性を混入させる恐れが低くなるのはありがたいことだ。

様々な場所でデモンストレーションをする中、Razorのシンプルな記述方法とヘルパーは非常に好評だという。「今まで時間がかかっていた入力作業が短縮されることで、アイデアやデザインなどを練る時間も増加します」と井上氏。氏の言葉通り、入力作業に大半を費やしていたのでは、ありあまる機能があっても使いこなすことはできない。アイデアや綿密な設計こそ、生きた"動的Webサイト"の構築には不可欠なのだ。

また、実際の制作現場では、勉強する時間がないからWebアプリケーションの開発や実装は外注へ出すというパターンも多い。ヘルパーなどを充実させる流れも、そこまで細かい実装をせずにデザインを重視した形で、そちらに注力してWebサイトを作ってもらいたいという思いからだ。

「WebMatrix」は、シンプルなコンソールそのままのコンセプトを持つ

「開発者」、「デザイナー」それぞれの立場から見た『WebMatrix』

「日本マイクロソフトにおけるこれまでのWeb開発・デザインで、どうしても抜けていた部分を補完し、WebMatrixで一通りのWeb開発が行るようになりました」と語る井上氏。

フレームワークや、技術的な部分ではJavaを使っていたり、動的Webサイトを作っていてもCakePHPやRuby on Railsを使っている人は多い。こうしたユーザーがマイクロソフトのプラットフォームで何かを作るとなった場合には、同じ無償という観点からいくと「Visual Web Developer」がマッチするツールといえる。

このVisual Web Developerの中で、たとえばJavaやRuby on Railsを含めて、MVCというデザインパターンでアプリケーションを構成する形になっているので、そうしたところに関してはASP.NET MVCというフレームワークが適している。

一方、Webデザイナーでアドビ システムズ「Dreamweaver」を使っているような場合、デザイン重視になってくるので、どこまでスクリプトやコードを使って動的Webサイトを作るかにもよるが、そこまでいかなくてもツールという観点では「Expression Web」などが対象になる。

少しHTMLを書いたり、そういったツールでデザインをしているが、ちょっと動的な部分にも踏み込みたいという場合に初めてWebMatrixが含まれてくる。Webデザイナー向けツールという観点で入ってくるのであれば、断然WebMatrixがメインとなるのだ。

井上氏も「デザイナーや静的Webを手掛けている制作者に上手く使ってもらいたい。どちらかというとデベロッパーではないですからね」と語っている。

「WebMatrix」のポジショニング

ステップアップのための最適なラインアップ

今まで動的Webサイト構築といえば、PHPに圧倒的なシェアがあった。「日本マイクロソフトのWeb開発は、本当に開発者向けの技術・フレームワーク・ツールしかありませんでした」と同氏はこれまでを振り返る。

「WebデザイナーやHTMLコーダーたちが、インターネットWebサイトを作ろうという時には、日本マイクロソフトのテクノロジーを素通りしてしまうのです。そういうこともあり、日本マイクロソフトとしても様々なWeb開発のテクノロジーを提供している中でも、もっとインターネット向けのサイトとして日本マイクロソフトのツールが必要だったのです」と井上氏。

もちろん広義では、IISを含むWindows Serverのシェアが拡大し続けているという部分がベースにあることも事実だろう。それをインターネットで皆さんに使ってもらうには、どうしてもこの今まで空白だった部分を埋めるツールやテクノロジーが必要だったというわけだ。

こうした背景から、WebMatrixやASP.NET Web ページ(Razor構文)などが企画され、正式リリースが決定した。「これで、足りなかった部分がやっと埋まってきた感じがしています。WebMatrixは、ベータ版などの話が出てきてからは1年強くらいの期間がありました。もちろん、当初から無償リリースを前提に開発が進められてきたのですよ」と井上氏も手応えを感じている。

将来訪れる"クラウド"への展望

日本マイクロソフトは、なぜ今Webに注力しているのだろうか。「やはりクラウドにフォーカスしている点が一番です。クラウドはベースとしてWebアプリケーションやWebサービス(Web API)が動くので、バックエンドにいろいろあったとしても、フロントに見えてくるのは大半がWebなのです」と井上氏。

そうした中で、インターネット上でのマイクロソフトのシェアはそこまでまだ高くない状況がある。もっと認知を広め、実際の制作現場で使ってもらわないことには、クラウドまでたどり着かないのだ。プラットフォームとしてはWindowsベースでの実績はあるが、やはり、その上で一番相性が良いものを使ってもらいたい。そうなると自ずと「WebMatrix」という答えが出てくるのだ。

日本マイクロソフト製品のワンストップで提供できるものを仕組みとして用意することで、プロデベロッパーからデザイナーまで、ワンセットで利用するユーザーが増えてゆく。「将来的に、あらゆる方々に日本マイクロソフト製品の良さを知って欲しいですね。まずは手軽に始められるWebMatrixをどんどん使っていただいて、スキルを上げて自分がやりたいことへ繋げていってもらえればと思います」と井上氏は語る。

無償で提供される統合Web開発ツール「WebMatrix」。今後のステップアップや、スキル開発など、多くの可能性が見える使いやすいツールといえるだろう。

「『WebMatrix』はスキルアップのきっかけとなる無償ツール」と語る井上氏

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撮影:石井健