『ハウルの動く城』、『崖の上のポニョ』、『時をかける少女』、『東のエデン』、『Je t'aime』など、数々の人気アニメ作品に背景美術・美術設定や美術監督として参加した増山修氏。スタジオジブリに所属していた時代から、背景美術で高い評価を得ていた増山氏が、そのテクニックを余すところなく披露したDVD-BOX『誰でも描ける風景スケッチ9つのコツ~アニメ作品のテクニックに学ぶ』が2010年12月15日にリリースされる。アニメーションや背景美術の世界について、増山氏に話を訊いた。
アニメーションにおける背景美術とは
増山修 |
――増山さんは元々スタジオジブリに所属していたそうですね。
増山修(以下、増山)「背景美術を10年ほどやっていました。その間、絵映舎に出向して『時をかける少女』に美術監督補佐として参加して、インスパイアードを設立してからは、押井守監督作品『Je t'aime』で美術監督をさせていただきました」
――最近は絵を教えるという取り組みもされているそうですね。
増山「DVDの元となったNHKのテレビ番組で講師を務めたのがきっかけで、一般の方やプロを目指す方を対象に『増山アートアカデミー』という、絵を教える仕事もスタートしました。一般コースの場合は、絵を描く楽しさを伝えるというもので生徒さんは老若男女様々な方がいます」
――増山さんは、アニメーション美術の世界にどのように入られたのでしょうか。
増山「元々は油絵出身で、大学在学中、山本二三さんに師事したのがきっかけです。それまでも風景画ばかり描いていたので、それほど違和感はなかったですね」
――アニメにおける背景画とは、どのようなものなのでしょうか。
増山「世界観を観客に提示する重要な役割が背景美術だと思います。キャラクターがどのような時代や場所に暮らしているのかなどを伝えられるわけです」
――アニメーションの制作過程で、背景美術はどのように作業していくものなのですか。
増山「美術監督が元となる美術ボードというラフ画を描き、背景マンがそれを元に背景画を描きます。最近では背景も3Dを使うシーンも増えていて、その場合3Dは担当会社に任せることが多いのですが、そこに張り込むテクスチャまでは、背景美術のほうで担当しています」
――『時をかける少女』や『Je t'aime』では、現代の街が写実的に描かれています。一方、SFなど架空の世界が描かれている作品もアニメでは多いのですが、増山さんにとって、これらを描くとき、大きな差異はあるのですか。
増山「差はありません。一見現実的に見える風景であっても、描く構図は作品に合わせたものであるので、現実の風景をそのままというものはないのです。だから、日常でもファンタジーでも、自分が観た風景の断片の集合体として描いています」
――そうすると、リアルな背景でも、漫画制作のように写真をトレースする部分はないのですか。
増山「背景だけのカットの場合まれにありますが、基本的にはありません。逆にトレースでは、アニメーションは作りにくくなってしまうと思います。キャラクターの動きもそれに合わせて限定されてしまうので」