理化学研究所(理研)は、金の二重膜を円筒状に自立させ、膜のすき間(ギャップ)をnmサイズで制御した「金二重ナノピラー(ストロー状の中空円筒構造体)」を、数cm四方にわたって大量かつ均一に基板上に配列させる技術を確立したことを発表した。また併せて、この金二重ナノピラー配列が高感度プラズモンセンサとして機能することも発見した。

プラズモンは、nmサイズまで微細化した金属(金属ナノ構造体)に光を照射すると、金属中の自由電子が集団振動し、局所的に増強された電場が発生する現象で、この現象を利用して、光の情報を圧縮し高密度で伝搬させる画像処理技術や情報伝達手段への応用が期待されている。

すでに、金属ナノ構造体を用いて、周囲の屈折率変化を鋭敏に検知するプラズモンセンサが開発、活用されており、2つ以上の金属ナノ構造体を数nmのすき間(ギャップ)を挟んで隣接させた構造体(ナノギャップ構造体)は、ギャップ間に強いプラズモン増強電場が生じることが知られ、より高感度なプラズモンセンサが実現できると注目されている。しかし、数nmの微小ギャップを高精度で均一に作製することは、電子線リソグラフィ法などの既存の技術を用いても極めて難しいことに加え、このナノギャップ構造体を直径cmのウェハサイズの基板上に大量に規則正しく配列することは、加工時間や生産効率などの問題から不可能であるため、簡単な作製方法の開発が求められていた。

研究チームは、独自開発した微細加工技術を基に、鋳型上に薄膜を積層した後、被膜の一部を選択的に除去する方法により、nm レベルでギャップの幅を制御した金二重ナノピラー配列を簡単に、均一かつ短時間で大量作製する技術を確立した。

ポリマーフィルム上に作製した金二重ナノピラー配列。作製したギャップ幅33nmの金二重ナノピラーの電子顕微鏡写真(左)とそれらを配列させたポリマー基板の全体像(右)

具体的には、直径400nmのピラーの原型(円柱構造)を約500nm間隔で並べた鋳型を、透明な樹脂(シクロオレフィンポリマー)基板上に規則正しく数億個のオーダーで配置させ、基板全体を金薄膜でコーティング。次に、プラズマエッチングによって金の被膜を選択的に除去し、円柱構造の鋳型の側壁部だけに金薄膜を残して金の内側の膜を形成する。その後、2種類のポリマー薄膜(ポリジメチルジアリルアンモニウム塩とポリスチレンスルホン酸の複合体)を均一に塗布し、さらに全体を金薄膜でコーティングし、再びプラズマエッチングで金の被膜を選択的に除去することで、金の内側の膜、ポリマー層、そして金の外側の膜というピラー構造を得る。加えて最後に、酸素を使ったプラズマエッチングによって円筒の鋳型とポリマー薄膜部分を除去し、幅が数nmのギャップと中が空洞の構造を持つ金二重ナノピラー配列を数cm四方という面積で数億個形成することに成功したとする。

金二重ナノピラー配列の作製プロセス。薄膜のコーティングとエッチングプロセスの繰り返しによって金二重ナノピラー配列を簡単に、均一かつ短時間で大量作製できる

同手法では、ギャップを形成する際に用いるポリマー薄膜の膜厚を制御することで、ギャップ幅をnmレベルで自由に設計することが可能であり、今回の実験では、実際に数nmから100nm程度までのギャップ幅を持つ金二重ナノピラーの作製に成功した。今回開発された手法は、コーティング技術やエッチング技術といった、大面積で均一に処理できる技術を基本としているため、ナノギャップ構造体を、精密に制御しながらウェハサイズの基板上に簡便に並べることができることが可能となっている。

ナノレベルでギャップ距離を制御した金二重ナノピラー。ギャップの形成に用いる2つのポリマーを吸着させる回数(1回の吸着で幅が約0.7nm)を調節することで、ポリマー薄膜の厚みを精密に設計し、ギャップ幅をナノレベルで制御することが可能

作製した金二重ナノピラー配列はプラズモン現象を示しており、屈折率のセンサとして機能するかどうかを研究チームでは検証。周囲の屈折率を変化させた際のプラズモン共鳴波長の挙動を観察したところ、周囲の屈折率変化に応じて直線的にプラズモンピーク位置がシフトし、金二重ナノピラー配列がプラズモンセンサとして機能することを確認した。

屈折率変化時の金二重ナノピラー配列のスペクトル変化(左)と屈折率とピークシフト値の関係(右)。センサ周囲の屈折率を変化させると、金二重ナノピラー配列で発生するプラズモンピーク位置が移動する。屈折率とそのシフト値の間に直線関係を観察したもの

プラズモンセンサとしてのセンサー能力(FOM値:Figure of merit値)を算出すると、23と見積もることができた。この数値は、ギャップ構造を持たない単層の金ナノピラーのセンサ能力に比べ2倍高いことから、ギャップによって高いプラズモン増強電場効果が発現し、センサ感度が向上したと考えられるほか、これまでに報告されている金ナノ粒子などのナノ材料のFOM値は1~2程度であるため、作製した金二重ナノピラー配列のセンサ感度は世界トップレベルとなったと研究チームでは説明している。

なお、今回開発された微細加工技術は、高い自由度でナノギャップ構造体のサイズ設計を行うことを可能にするものであり、ガラスなどの固定基板のほか、ポリマーフィルムなどの柔軟な基板にも適用できるため、フレキシブルセンサチップへの展開も期待できるという。そのため、研究チームでは、今後はこのような利点を生かし、プラズモンセンサだけでなく、光を利用するさまざまな機能性材料へナノギャップ構造体を適用することで、太陽電池などをはじめとする光機能性材料の高性能化なども期待できるとしている。