産業技術総合研究所(産総研)は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、イオン液体、導電性高分子からなるコア・シェル型構造の三元系材料を開発し、色素増感型太陽電池用対極材料として用いると、白金(Pt)とほぼ同等の光電変換効率を示すことを発見したことを明らかにした。
色素増感型太陽電池は有機系の材料を用いた薄膜太陽電池で、インクジェット法などの低コスト製造が可能なことから、各所で開発が進められている。色素増感型太陽電池は、透明電極付きガラス基板上に二酸化チタンの多孔質膜を作製し、この多孔質膜に色素を吸着させた後、白金がコーティングされたガラス基板を対極として、ガラス基板間の隙間に電解液を注入、封止剤などで封止して太陽電池セルを作製する。
この対極材料として用いられる白金はレアメタルであり、宝飾品を中心に自動車の触媒や燃料電池、2次電池向けなどで用いられており、需給バランスが崩れ、価格のさらなる高騰が懸念されている。
産総研では、白金に代わる対極材料として、導電性に優れ大量合成も可能になってきたCNTに着目、MWCNTを用いた研究開発を行ってきた。MWCNTを用いて太陽電池用対極を形成するには、MWCNT単体は粉末状なため成形が困難であり、何らかの基材高分子に分散させる必要がある。しかしMWCNTは凝集力が強く、有機溶媒を用いても分散が難しいという課題があった。
産総研はこれまで、高分子材料同士のナノ混合化や各種ナノサイズ粒子やフィラー(充填材)を高分子にナノ分散させて、新規ナノコンポジット材料を創製する研究開発を行ってきており、同研究開発で培った技術を活用することで、MWCNTを分散させた高分子材料を作製、太陽電池用対極材料とすることを試みたという。
具体的には、MWCNTと親和性の高いイオン液体(IL)を用いてMWCNTの表面を改質。ILとしてヒドロキシ基を2つ含むイミダゾール系のものを選び、MWCNTに同ILを加え機械的に混練。するとゲル化が起こり、MWCNT同士の凝集が解け、剥離分散したことが確認された。ゲル化により、MWCNTが親水性となって分散性が向上したと考えられるが、この二元系組成物(IL-MWCNT)だけを色素増感型太陽電池の対極に用いても、光電変換効率は白金を対極にした場合に及ばなかった。
そこで、導電性をさらに向上させるために、このIL-MWNTと、チオフェン骨格を持ちスルホン酸塩と対になって親水性を示す導電性高分子、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホニウム(PEDOT:PSS)と混合することとして、実験を継続した。まず、PEDOT:PSSの水溶液にIL-MWNTを添加して超音波によって分散させ、その後、遠心分離することで、三元系導電性材料(IL-MWCNT/PEDOT:PSS)が得られた。このIL-MWCNT/PEDOT:PSSの構造を調べたところ、表面にIL分子がついたMWCNTが核(コア)となり、PEDOT:PSSが殻(シェル)となっているコア・シェル型構造が形成されていることが判明した。
同コア・シェル型構造のIL-MWCNT/PEDOT:PSSを対極に用いて色素増感型太陽電池を作製、その特性を測定したところ、白金電極とほぼ同等の特性が確認された。すなわち、二元系組成物では達成できなかった光電変換効率の向上が見られたこととなる。
産総研では、今後、同対極材料の大面積化を検討するほか、対極材料以外の応用も検討し、積極的に製品化を進めていく計画としている。具体的には、これらの製品化も含め、産総研 イノベーション本部 ベンチャー開発部と共に2011年度のベンチャー創業を目指すとしている。